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「興味あるなら入るか」
柚木はぎょぎょぎょっ、した。
ナイトクラブのエントランスじみている派手な入口へ直行しようとした彼に慌てて飛びついた。
「ややや、やめてやめて、それだけは勘弁して」
「これ以上比良クンの顔に泥を塗るのはやめて」
阿弥坂も加勢した。
ラブホテルへ入ろうとする<マストくん>を二人掛かりで必死になって制止する。
「なにあれ、修羅場?」
「どーいう状況?」
通りすがりのカップルにクスクス笑われると、自尊心を踏み躙られたプライドの高いアルファの女王サマ、あろうことか助太刀を放棄して彼らの元へ直行しようとした。
(それもやめてーーーー!!)
「阿弥坂さんっ、抑えて抑えて!!」
ラブホテルの入り口前で今度は阿弥坂に飛びついたへっぽこオメガ。
「このままだとラブホにマストくん入っちゃうからっ、非力なおれじゃあ止められないからっ、助けてください! お願い!」
柚木に抱きつかれた阿弥坂は。
キャップのツバで翳っているアーモンドアイを見開かせた。
「しかもマストくん制服だし! 学校に連絡されたら……っ……ヒィィ……!」
最悪なケースを想像してパニックに陥った柚木はさらに阿弥坂の背中にしがみつく。
彼女のお腹に両腕を回してぎゅうぎゅう締めつけた。
「おれが甘かったです! 悪いのはおれです! だから比良くんのこと一緒に守ってーー」
「何やってる、柚木」
ラブホテルへ入ろうとしていたはずの<マストくん>に首根っこを掴まれ、柚木は、阿弥坂からベリッと引き剥がされた。
「うっ」
「俺以外の奴にくっつくな」
「う、う、う」
「そんなに俺に引っ込んでほしいのか。俺が嫌なのか」
「く、首が締まる~~……っ」
ポロシャツの襟をグイグイされて首が締まり、苦しがる柚木に肩を竦めると、彼はトンデモナイ行動に出た。
「誰にもくっつかないよう、こうしてやる」
そう言って、やや平均以下サイズの体を竦めたばかりの肩にひょいっと担ぎ上げた。
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