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お姫様抱っこならぬお米様抱っこだ。 柚木は……もう抵抗しなかった、ラブホテルへは入らずに通りを歩き出した彼にむしろ一安心し、ぎゃーすか喚いて目立つのをよしとせず、大人しく運ばれることを選んだ。 「なにあれ、拉致されてる?」 「そーいうプレイ?」 「ボクも担がれたい……」 当然、数少ない通行人の注目をこれでもかと引いたが。 米俵の気分に徹して現実逃避することにした。 「走ったらまた喰いたくなってきた」 「おれは米俵……だから喋りません……」 「柚木、米だったのか。じゃあ今すぐ喰えるな」 「た、食べちゃだめ、お腹壊すから」 柚木は<マストくん>の肩の上でもぞもぞと頭を起こす。 キャップを目深にかぶり直し、何事もなかったかのように後ろをついてくる阿弥坂に謝った。 「阿弥坂さん、ごめん。さっき、てんぱっちゃった」 「……」 「ベタベタくっついちゃってごめん」 「フン」 またさらに深くキャップをかぶった彼女に柚木はもう一度「すみませんでした」と重ね重ねお詫びした。 「一体いつになったらマストは収まるのよ」 はっきり言って居心地の悪い肩の上、落ち着きなくもぞもぞしていた柚木は阿弥坂への返事を言いよどむ。 「食べて、走って、次は何? お昼寝?」 「……マストくん、お昼寝する?」 「しない」 「……だそうです」 「そもそも、マストくん、その呼び方もどうかしてる」 「えー、どうしても比良くんとは呼べなくて、最早別人だから、そう呼ぶことにしました」 「歩詩の頭の中、バグってるんじゃないの」 一時期、感情の誤り(バグ)発生に自分自身混乱していた柚木は閉口した。 「本当、私が偶然通りかからなかったらどうなっていたか。ぞっとするわ」 (確かにそうだ) 阿弥坂さんが止めに入らなかったら、マストくん、あのパリピを殴ってたかも……。 (いや、ほんとに殴るつもりだったんだろーか?) 殴るジェスチャーだけ見せて、ノー暴力で追っ払うつもりだったなら、いいんだけどな。

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