133 / 333
17-10
迷路のように複雑に入り組んだラブホ街。
非日常的な別世界に興味がないわけもなく、柚木は<マストくん>の肩の上からオモチャ箱をぶち撒けたような風景に遠慮がちに視線を巡らせる。
主にカップルが割合を占める通行人の目をものともせず、疲れ知らずの彼は阿弥坂が入っていった路地裏へ進んだ。
「いたぞ」
彼女はすぐに見つかった。
「増えてる」
「増えてるっ? えっ? どーいう意味?」
逆向きに担がれている柚木には現状が全くわからない。
確認しようとジタバタしていたら<マストくん>はまたくるりと回れ右し、狭い路地であるために電柱や自転車に次々と足がぶつかり、柚木は悶絶した。
「ッ、足ッ、足がッ、なんか結構痛いんですけど!?」
結局のところ、ぎゃーすか喚いてしまい、その場にいた一同に注目される羽目に。
「ッ……阿弥坂さん……」
阿弥坂は淡い光が点る自販機の前に立っていた。
向かい側には三人連れの男が、彼らに囲まれるようにして一人の少女がいた。
四人ともベータ性だ。
男達は成人のようである、だって首や腕にタトゥーがある、タバコを吸っている者もいた。
ひどく怯えた様子の少女は真夏並みに露出度の高い格好をしていた。
「なーんだ、君にもツレがいたんだ」
「自分だって楽しむ気満々じゃん?」
男達の台詞を完全無視して、阿弥坂は、彼らに怯える少女に言う。
「貴方、イライラするわ」
「ぇ……?」
「助けを呼ぶ声も出せないの。猫に襲われたネズミだってギィギィ喚くわよ。蛇に睨まれたカエルじゃあるまいし。危機管理能力が鈍ってるの?」
一行に背を向けている<マストくん>の肩の上で柚木はゴクリと喉を鳴らす。
(こ……怖い……)
女王サマ、輩系の方々に絡まれてる女の子を助けるために駆け寄ったんでないの?
公開説教するために突撃したんですか!?
ともだちにシェアしよう!