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柚木も阿弥坂も言葉を失った。 蹴り上げられたベータ男が吹っ飛んで、悲惨にも彼自身が横倒しにした自転車の上に倒れ込むのを呆然と見送った。 それまで無関心だったくせに、有り余る激怒に赤い目を滾らせ、標的をロックオンした<マストくん>は毒々しげに笑う。 逃げようとしていた三人目にはポリバケツを狙い違わず投げつけ、ゴミ塗れにしてから言い放った。 「逃げても逃げなくてもお前も仕留める」 マストにおける典型的な凶暴性の開花。 別格アルファの殺気に射竦められたベータ男共は、危険な間食による酩酊感もすっかり醒めて、腰を抜かし、恐れ戦いた。 (これ、あれだ、阿弥坂さんが止めてなかったらパリピも絶対に殴ってた) ほんわかしてたおれの気持ち、今すぐ返せ、マストくん。 「だめだよ」 これ以上、彼をベータ男に接近させてはいけない。 地べたに座り込んだままの柚木はスラリとした長い足にしがみついた。 何をされても離すまいと、あらん限りの力を込めた。 「ああっ」 まぁ、非力なへっぽこオメガなので、すぐ簡単に引き剥がされてしまったが。 「っ……もういいっ、もういいよっ、もういいから!! 帰ろう!? マストくーー……」 引っ張り上げられた柚木は言葉を切った。 一気に血生臭くなったラブホテル街の路地裏、別格のアルファに顎クイされて全身を張り詰めさせた。 「俺はどこに帰るんだ?」 <マストくん>の素朴な問いかけに答えられず、かたまっていたら。 キスされた。 いつにもまして荒々しく殺気立つ彼にいいように唇を漁られ、屠られ、奪われた。 蹂躙にも近い甘狂おしい口づけに朦朧となって、ただただ受け止めていた柚木は、ぽろっと涙する。 (答えられなくて、ごめん、マストくん)

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