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「柚木はそこで待ってろ」 束の間の捕食キスが終わった瞬間。 柚木は室外機の傍らにガクリと崩れ落ちた。 短いながらも怒涛の舌攻めにより、ぐでんぐでん、へべれけに近い状態まで追い込まれ、ベータ男とは違う意味で腰が抜けてしまった。 「ま……待っ……」 (だめだ、力が出なぃぃ……) 別格アルファの迫力に呑まれた男共は逃げることもできずにそれぞれ蹲っていた。 まるで奴隷さながらに。 殺気漲る<マストくん>に抗う術も持たずに平伏(へいふく)しているかのようだった。 「ッ……」 一方、同階層である阿弥坂も彼の尋常ならないオーラに(かしず)くように無意識に膝を突いていた。 今までに見てきたどのアルファよりも格上の支配力を醸し出す佇まい。 独りでに心身が屈する。 畏怖の念が高まる。 その凶暴性が花開くのを見届けたい、そんな気持ちさえ湧いてきそうな。 「あ……阿弥坂さん……」 阿弥坂はハッとした。 すぐそばで虚脱しかかっていた柚木を見た。 「マストくん……止め……比良くんを……守って……」 (今、自分にできること、それは他人任せ……!!) 情けないの極みながらも冷静な判断を下した柚木、学校で一番おっかないクラスメートに救いを求めた。 求められた阿弥坂は、別格のアルファに打ちのめされて自信を喪失しかけていたアーモンドアイを波打たせた。 自転車を下敷きにし、ガタガタと震えるベータ男の真正面まで迫った<マストくん>の背中を見据え、ギリッと歯を食い縛る。 アルファの女王サマは立ち上がった。 側溝蓋を蹴って、別格のアルファの背後へ。 「比良クンが暴走したら全力で制御する」 阿弥坂の声に彼は振り返った。 「そう誓ったの。この私自身に」 対峙したアルファとアルファ。 まさか自分が素っ転んだだけで、こんなにもド緊迫した展開になるなんて予想だにせず、柚木は固唾を呑んで二人を見守った……。 「おっ、落ちてる、落ちちゃってるよ、阿弥坂さんっ、マストくんが死ぬーーーー!!!!」 宣言通り、阿弥坂は全力で<マストくん>に挑んだ。 片腕を捻り上げ、バランスを失った体をアスファルトに腹這いに沈め、そのまま肘関節をガッチリ()めた固め技へ。 見ていた柚木は彼の腕がボッキリ引っこ抜かれるのではと恐怖し、力を振り絞って二人の近くへにじり寄った。 「あああ~! やっぱり失神してない!? 腕折れたんでない!? ちゃんと息してるかな!?」

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