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18-1-阿弥坂さん

「歩詩を見てると世界で一番嫌いなオメガを思い出すの」 アクセスの利便性に優れた市街地中心部に居を構える大型ホテル。 夜景が一望できるバー、和洋中が揃った高級レストラン、SNSでも頻繁に取り上げられるスイーツブッフェ、夏場には多くの若者で賑わう屋外ナイトプール、とにかく話題のスポットが盛りだくさんの人気宿泊施設だ。 シャンデリアが出迎える吹き抜けのエントランス。 思い思いにドレスアップした客が寛ぐ、一段と華やいだ週末のガラス張りのロビーラウンジ。 ライトアップされた夕暮れのガーデンが美しい。 気絶したままでいる比良を背負った阿弥坂の、なんと目立つことか。 「クラスメートなの」 擦れ違う度に目を見張らせるホテルの従業員に逐一告げ、阿弥坂は堂々と突き進む。 背後にくっついていた柚木はキョロキョロが止まらず、頭上のシャンデリアに見惚れていたら「置いてくわよ」と注意され、あたふた後ろについた。 フロントへは寄らずにエレベーターホールへ。 「うはぁ、ボタンがいっぱい」 広々としたエレベーターに乗り込み、ずらりと並ぶ階数ボタンにすら驚いている柚木を、阿弥坂は無視した。 地上三十階中の十六階で降り、柔らかく穏やかな照明が照らす廊下を突き進む。 ある部屋の前で立ち止まると、携帯しているカードキーで開錠し、自分でドアを開けて中へ入った。 見栄えよく設えらえた大きなベッドがぱっと目を引くダブルルーム。 カーテンが閉ざされた窓際には肘掛け椅子が二脚、間にテーブルが設置されている。 壁際のデスクにはノートパソコン、それにノートやテキストも纏めて置かれていた。 (ホテルとかいつ振りだろう) 去年の夏休み、家族で温泉旅行に行って旅館には泊まった……うん、旅館とは雰囲気がぜんっぜん違う。 なんかこう……スタイリッシュというか……大人っぽいというか……ら……らぐじゅありー……? 「……あ!」 正直なところ、情報だけは知っていたが初めて訪問する有名ホテルに柚木は浮かれていた。 よって、比良の運搬を阿弥坂に任せっきりにしていることが意識の外に追いやられていた。 「ご、ごめん、阿弥坂さん、疲れたよね、お疲れさ……ま……?」 比良をベッドに横たえた阿弥坂は、いつの間に手にしたカットバンを柚木の方へ突き出した。 「怪我してるでしょう」 彼女に言われて、擦り剥いた片腕の僅かな出血に柚木はやっと気がついた。

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