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「だけど阿弥坂さんってほんとに強いね」 見慣れた夕景を映し込んでいた大人びたアーモンドアイが、向かい側のへっぽこオメガへ焦点を切り替えた。 「すごくかっこよかった」 柚木は素直に顔を輝かせて女王サマを褒め称えた。 面と向かって褒め称えられた彼女は……柚木の顔をしばし凝視した。 (もしかして女王サマに<かっこいい>は禁句でしたか) これまで以上の地雷を踏んでしまったかもしれないと、内心、気が気じゃあない柚木の前で阿弥坂は立ち上がった。 「益々、嫌い」 (どうやらがっつり地雷だったみたいです) 「ママよりも嫌い」 (どうしよ、投げ飛ばされたら確実に死ぬ) 「ノロマなベータ女より、あのクズ共より、イライラする!!」 阿弥坂は指まで差して柚木を堂々と罵倒した。 ニキビ一つない滑々した頬を燃えるように火照らせ、紅潮させて。 湧き上がってくる不慣れな感情に密かに狼狽(うろた)えた。 比良に捧げる敬愛と羨望、それを上回る、強く激しい想いだった。 「……ごめんなひゃい……」 女王様にキレちらかされた柚木は蛇に睨まれたカエル並みに萎縮する。 彼女の顔が赤いのは有り余る怒りのせいだと決めてかかり、めり込む勢いで首を縮めようとしていたら。 「う……」 ベッドの方から聞こえてきた小さな声。 柚木は……反射的に駆け寄った。 フットスローがかけられたままのベッドに仰臥する比良を覗き込んだ。 「比良くん」 呼びかけに反応はない。 眠れる憧れのクラスメートに柚木は不安そうに眉根を寄せた。 (実は、やっぱり、腕折れてたりして) 「何してるの、比良クンが起きるでしょう」 阿弥坂に引き千切られそうになっていた片腕をツンツンしていたら、当の彼女に諌められ、慌てて手を引っ込めた。 「比良くん、腕、折れてない……?」 心細そうに縋るような眼差しで柚木が問えば、女王サマは顔を背けて「折れてない。何回もくどい」とつっけんどんに回答した。 いくらか落ち着いたようにも見える阿弥坂にほっとして、柚木は、その場に両膝を突く。 ベッドにそっと両腕を乗っけて比良の寝顔を見つめた。 (次に起きたときは比良くん? マストくん?) どっちでもいい。 ちゃんと目覚めてほしい。 (……五分だけでもいいから、デートの続き、したい……)

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