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「そんな、んなわけない、誤解だよ比良くん」 柚木は今日一日あったことを掻い摘んで比良に報告した。 「まずごはん屋さんでマストになって、そんでマストくんにデートに誘われて」 「……デート」 「それから、お母さんに黙ってごはん屋さんからこっそり抜け出した、本当にひどいことしました、ごめんなさい」 「母に黙って……そうか」 「えーと、次はサングラスを買って」 「柚木と買い物をしたのか?」 「あとなんだっけ、何かに遭遇したよーな、っ、そーそー、パリピに遭遇して」 「パリピ」 「そこで阿弥坂さんとバッタリ会って、三人でバーガー食べて、急にかけっこが始まって、あんまり行っちゃいけないって学校から注意されてる界隈まで突っ走って」 「ラブホテル街……か」 「そこでガラ悪めのお兄さん方に絡まれて……ていうか阿弥坂さんが自分から突撃して……そこで、まぁ、いろいろ一悶着ありまして……阿弥坂さんに頼りっぱなしの阿弥坂さんサマサマでした……で、最終的に阿弥坂さんのご厚意に甘えて、ここで休憩、現在に至る……です」 報告を終えた柚木は比良に飲ませるつもりだったミネラルウォーターをゴクゴク飲んだ。 「……あ! もうちょっとしかない!」 「俺が眠っている間に、本当、色々あったみたいだ」 比良の眉間の縦皺は減るどころか、むしろ増えていた。 柚木の方を見ずに、真っ白なカバーに掌を(うず)めて深い皺を刻み、問いかける。 「今日、マストになった俺とは何もなかったのか……?」 鈍感なへっぽこオメガでも、その質問の真意に気がついた。 眉間の縦皺がこれ以上増えないよう、安心させるためのウソをつこうとして、憧れのクラスメートを欺くのは万死に値すると思い止まり、ペットボトルを両手で握り締めた。 「……キスだけ……」 柚木の正直な回答を聞いた比良は、もう一度、長い瞬きを一つした。 「俺も柚木とキスがしたい」

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