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絡め取られた舌が比良の唾液に濡れそぼっていく。 「っ……ふ……ぅ……っ……ン、ン……ン……」 今度は柚木が眉根を寄せる番だった。 彼の唇が唇に隙間なく密着し、音を立てて緩やかに口内を撹拌され、上顎を舐められる。 歯列の裏まで左右になぞられ、やんわりくすぐられ、連続して刺激を送り込まれる。 「んっ!」 舌の先っちょを甘噛みされたときは比良の制服シャツを握り締めた。 背筋を引き攣らせて濃厚キスに逐一反応している柚木を、比良は、薄目がちに見守る。 息継ぎも二の次にして、先週よりも長く深く、愛しいオメガにたっぷり口づけた。 「ん……ぷ……っ」 憧れのクラスメートを押し返すことはできず。 危うげな陶酔感をもたらす比良の舌遣いに柚木は貧弱な腰回りをゾクリと粟立たせる。 (……比良くん、やっぱりキス上手だ……) 重なり合う唇の狭間に時に見え隠れするアルファの舌。 オメガの舌に甘えるように擦り寄り、愛しげに物欲しげに(たわむ)れ、二人の口元を大胆に湿らせていく。 「ふぁ」 上唇を吸われた柚木が吐息を洩らせば、黒曜石の瞳は閉ざされっぱなしの瞼に束縛された。 『大丈夫、何もされてないよ、おにぎり食べられたくらい』 『……おにぎり……?』 ほんの些細なことが比良の胸をチクリと刺して小さな痛みを残していった。 馬鹿げている。 マストとはいえ肉体は同じだ。 基礎の人格は他の誰でもない、ただ一人、比良柊一朗だというのに。 それなのに止められなかった。 「……」 比良がキスを終えれば柚木はくたりと脱力した。 耳たぶの隅々まで火照らせ、頼もしい胸板に上半身を預け、乱れた呼吸を繰り返す。 「自分に嫉妬するなんて柚木はおかしな話だと思うか?」 投げかけられた問いかけを理解するのに少々時間がかかった。 すっかり逆上せてしまい、なかなか呼吸が落ち着かず、居心地のいい懐に無意識に頬擦りする。 「可愛い」 比良も柚木の黒髪に頬擦りした。 「もう一人の俺に先を越されたくない」

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