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19-7
乱れていた柚木の呼吸がようやく落ち着きかけた矢先のことだった。
比良の卒がない手つきによってスムーズにベッドへ押し倒されたのは。
「柚木」
後頭部に添えていた手でボサボサになった髪を梳き、体重をかけないよう覆いかぶさった比良は熱もつ声で柚木を呼ぶ。
呼ばれた柚木は状況を呑み込めずに放心している。
しかし、二人の雫に濡れていた唇を力強い親指に拭われると、また腰の辺りをゾクゾクさせて「んん……っ」と身を捩じらせた。
(……これは……)
清潔感満載の薄いブルーの制服シャツを腕捲りした、凛々しい上がり眉を遣る瀬無さそうに顰 めた比良を真上にし、柚木は危ぶむ。
(ちょっとマズイのでは)
「比良くん、あのーー」
「俺とは駄目なのか?」
先手を打つように発言を問いかけで遮られた。
「もう一人の俺とは買い物に行ったり、食事をしたりしたのに」
「っ……比良くんともお昼ごはん一緒に食べたよ?」
「キスだって、きっと俺より何回もしてる」
「……」
小さいながらも比良の胸に蓄積されていった痛み。
紛れもない嫉妬だった。
自分よりも柚木と深く交流している<もう一人の自分>を敵視し、なおかつ、以前にもまして羨むようになっていた。
「俺は海老天をもらっただけだ」
柚木は耳を疑う。
やや平均以下サイズの自分の体など簡単に覆い隠す、スタイルよき比良をまじまじと見上げた。
『自分に嫉妬するなんて柚木はおかしな話だと思うか?』
(エビ天にかぶりつかれたとき、マストくんっぽいって思った)
もしかして、おにぎりバクリの話を先週にしたから?
比良くんもマストくんに負けじとエビ天バクリしたってこと?
「マストの俺の方が柚木にたくさん触れてる」
『あんなに可愛い柚木、マストの俺しか知らないなんて不公平だ』
<もう一人の自分 >に比良がヤキモチをやいている。
ひた向きに注がれる視線伝いに、先週の金曜日振りに、別格アルファの嫉妬が我が身を再度直撃した瞬間。
柚木はキスされていたときと同等の危うい陶酔感に襲われた。
「俺も……もっと君に深く触れたい」
失われたはずの発情期 に落っこちたような気がした。
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