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「俺が相手だと、そんなにも嫌なのか?」 「ち……違……」 「もう一人の俺には見せて、触らせて、好きにさせてるのに」 「マストになったときのこと、覚えてないのに……なんでわかるの?」 窓の方に顔を向けてはいるが、煌めく夜景は視界を素通りし、大太鼓並みに高鳴る胸に柚木はクラクラしっぱなしだった。 「どうしてわかったのか、知りたいか?」 背中を曲げた比良は掴んでいた膝に顎を乗せる。 魅惑のの気配に柚木の鼓動はドラムロール並みに轟き始める。 「柚木の残り香がした」 頑なにくっついた膝同士の骨張った感触を愉しみつつ比良は答えた。 「俺の体に染みついていた」 柚木は愕然とする。 自分の方は持ち歩いているポケットティッシュなどで色々と処理していたが、比良に対しては服装を整えるのが限界、繊細な後始末にまで気が回らなかった。 「気が狂いそうなくらい甘い残り香だった」 比良は柚木の膝を抱いた。 必死に明後日の方向を向いている、その切羽詰まった横顔に底なしの独占欲を募らせた。 「柚木は俺に触られるのがやっぱり嫌なのか?」 ずっと同じ姿勢をキープするのは難しく、股間に差し込んだ両手をプルプルさせ、柚木は首を左右に振った。 「おれは……比良くんを取り戻すためにマストくんと……マストくんの欲求を処理すれば、比良くんが帰ってくるから……」 (最初はそうだった、それだけのつもりだった) <マストくん>への気持ちの変化に関して、みなまで言わず、柚木はそろりそろり真正面へと視線を移動させる。 「ッ……と……とと……」 「ととと?」 あごのせアルファの破壊力に「尊い」と一先ず打ちのめされ、それから深呼吸して、伏し目がちに言葉を続けた。 「比良くんが嫌とか、そーいうんじゃなくて……むしろ、さっきから、ずっと、何回も……す……すすす……」 「すすす?」 「す、好きに……比良くんの好きなようにされたいって……思った、です」

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