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比良に抱く憧憬の念もほっぽり出してイヤイヤする柚木。 そんな反応が猛烈に堪らなくて片時も離れられない比良。 「ぁっ、ぁっ、ぁっ……もぉ……だっ……めっ……!!」 優しくも執着的な唇に欲されて何回も達したオメガ。 有り余る愛情の赴くままにご奉仕に徹したアルファ。 「柚木……まだ、もっと、いってみて……?」 とうとう射精を迎えた純潔ペニス。 頂きから放たれた白濁も嬉々として比良の唇に受け止められ、一滴残さず呑み干されて、柚木は余すことなく奪われた……。 ……いや、奪われずに守られたものもあった。 「……ふにゃ……」 比良に脱がされた服を比良に着せられている間、それまで絶頂のループに陥っていた柚木は腑抜け状態、まるで酔っ払いの体たらくであった。 「熱いシャワーで濡らして絞ってきた」 「ううぅぅ」 熱々のタオルで顔を拭かれるとしかめっ面になり、拭いてやっている比良は聖母マリアの如き微笑が尽きず、物の(つい)でに額や瞼にキスしたりなんかした。 「可愛い」 ボサボサになった黒髪を手櫛で整えてやる。 今にも寝てしまいそうなオメガの睫毛まで短い爪で梳く。 「帰ろう、柚木」 広々としたベッドの縁に腰掛けた比良は、首のすわっていない赤ん坊みたいにグラグラしている柚木に肩を貸すと、部屋の中へ視線を巡らせた。 窓の外の夜景には特に関心を示さず。 壁際のデスク上に置かれたノートパソコン、見知った教材に目を留める。 ここはアルファの女王サマこと阿弥坂のテリトリー。 柚木の残り香を残しすぎるのも考え物だった。 「んーーー……」 スリスリしてきた柚木に比良は笑みを深める。 頼りない肩をしっかり抱き、聖域への未練を多少燻らせつつも、ある程度満たされた夜にそっと感嘆した。 「柚木」 「ん~~……ふにゃ……」 「柚木の純潔、いずれ俺に捧げてくれるか?」 「んが……まだ寝る……お母さん、あっち行って……お父さん、大豆におやつ、あげすぎないで……」 四月の遠足、帰りのバスで居眠りしていた柚木を思い出し、比良はくすぐったそうに小さく笑う。 「俺の純潔を柚木に捧げる覚悟はできてるよ」 束の間の幸福に浸る黒曜石の瞳を瞼で閉ざし、比良は、愛しいオメガに囁きかけた。 柚木はそれまで瞑っていた目を開ける。 すぐ隣にある極上の温もりを噛み締めつつ、目覚めを促した衝撃的な台詞を脳内で反芻してみた。 (俺の純潔をおれに捧げる……?) アルファの比良くんがオメガのおれに抱かれるわけがない、100パーセントありえない。 まぁ、とにもかくにも、つまり。 そう。 そーいうことだ。 (…………比良くんは、誰とも経験が、にゃい…………)

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