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20-1-回想
雨降りの日曜日。
昼食後、数学の宿題を終わらせた柚木は自室のベッドに寝転がった。
「はーーーー……」
当然、昨日の出来事が頭から離れず。
宿題は間違いだらけに終わっていたが、へっぽこオメガが気づく由もなく……。
『お母さん、どうしてここにいるんですか!?』
昨夜、ホテルの部屋を出る前、柚木は自分の携帯を比良に差し出した。
まず櫻哉に現状を伝えるべきだと判断し、連絡をとってもらったのだが、その居場所を聞いて度肝を抜かれた。
『柚木君、申し訳ありません』
なんと。
櫻哉はホテルのロビーラウンジにいたのだ。
フロントにカードキーを預けた後、窓際のソファ席へ比良と共に向かい、昼食振りの対面に柚木は思いっきり頭を下げた。
『謝るのはおれの方です! 黙っていなくなって、心配かけて、勝手なことしてすみませんでした!」
『頭を上げてください。勝手なことをしたのは私の方ですから』
モダンな調度品、気品漂うクラシカルなドレープカーテン、洗練された空間がよく似合う櫻哉は衝撃的事実を告げた。
『私は貴方達を追跡していました』
和食料理屋で。
人気のないフロアの角で電話を済ませ、個室に戻ろうとした櫻哉は、こっそり外へ出て行こうとしていた柚木と我が子を目撃した。
遠目ながらもクラスメートの手を握る比良がマスト化しているとすぐに気付いた。
止めようとした。
だが止められなかった。
部屋に閉じ込めて<彼>の自由を奪ってきた分、初めて目の当たりにした楽しげな様子を手折るのに躊躇した。
『途中で<彼>に気づかれて振り切られてしまいましたが』
『あっ! 鬼ごっこの鬼って、お母さんのことだったんだ!』
謎が解けた柚木は背後にいた比良に声高らかに言い、鬼ごっこ時に眠りについていた彼は微笑ましそうにしつつ、首を傾げてみせた。
『同じクラスの阿弥坂さんが途中から合流していたので、もしかしたらと思い、彼女のご親族が運営されているこのホテルを訪れました。それから貴方達が来るか来ないか、もしくはすでに来ているのか、闇雲に動き回らず、こちらで考えを巡らせていた次第です』
比良は母親の話を黙って聞いていた。
ソファに座るよう促された柚木は櫻哉と並んで腰かける。
『じゃあ、阿弥坂さんが比良くんを背負って入ってくるところ、ここから見てたんですか?』
櫻哉はゆっくりと頷いた。
『柚木君の様子を見て、深刻な事態ではないと判断し、引き続き待つことにしました』
初訪問となるホテルに浮き足立っていたところを見られていたと知り、柚木は赤面せざるをえなかった……。
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