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『何はともあれ。エキサイティングな一日でしたね』
柚木はベッドの上でごろんと寝返りを打った。
(ラブホ街でのこと、お母さんには言えなかった)
人を蹴っ飛ばしたり、ゴミ塗れにしたり、あれこそエキサイティングが最高潮な出来事でしたけど。
お母さんの警戒心が跳ね上がって、これ以上、マストくんが厳しくされるのも嫌だったから……。
『次に柚木に会えるのを楽しみにしてる』
柚木は冷感クッションに抱きつくと顔を埋めた。
別れ際の比良の笑顔は記憶に新しく、思い出すだけで胸の内側はどんちゃん騒ぎと化した。
非日常的なホテルのベッドで過ごした心中紛いのデートの時間も。
オメガの肌身に、しっかり、奥まで刻みつけられていた。
「……比良くんって、しゅけべだったんだ……」
(そんな比良くんが純潔だにゃんて!!)
独り言でも心の声でも余裕で噛むへっぽこオメガ。
よれよれシャツに半ズボン姿で一人ジタバタ悶絶した。
(別格のアルファが純潔だなんて全世界が引っ繰り返っちゃうぞ、おい!)
キスも何もかも全部上手だった……と、ド童貞の分際で思ったのですが。
これまでの恋人とは清いお付き合いだったってこと?
(待てよ)
噂はあったけど、どれも呆気なく散っていったゴシップ達。
もしかして付き合ったこともない?
諸々全部が初めてだったってこと?
「ありえにゃい」
クッションをぎゅっして、壁の一点を半開きの目で見つめて、柚木はため息をつく。
『柚木君にお願いがあります』
櫻哉はわざわざ我が子から離れたところで柚木にある頼み事をしてきた。
『七月下旬、私と夫は学会に出席します。その間、柊一朗は親戚に預けるつもりでいました。ですが貴方と<彼>の相性を見込んで、不躾は承知でお願いします。私達の出張中、柊一朗と一緒にいていただくことはできないでしょうか』
『え!?』
『報酬もお出しします』
『えっ!』
報酬に目が眩んで頼み事を引き受けた……わけではない、返事はまだ保留にしている、そのときは突然すぎて考える余裕もなかった。
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