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『引き受けてもらえた場合、柚木君のご家族には私の方からお話させていただきます』 グランドピアノの陰で櫻哉と向かい合った柚木は。 背筋を垂直に伸ばしてソファにつき、正面を凛と見据える比良を観葉植物越しに見やった。 『貴方を隣にした<彼>は……いえ、柊一朗は私の目にとても新鮮に映ります』 櫻哉もまた我が子に目をやる。 『幼い頃から喜怒哀楽のコントロールに長けた子でした。でも。柚木君のことになると感情が最優先されるようですね』 「なー、大豆、おれと比良くんって、もしかして親公認なのかな?」 足元で寝ていた黒柴の大豆が目覚め、背中に乗っかってきた。 なかなか重たいものの、ベッドに伏せしたまま柚木は悩む。 「あ~、どうしよ、一泊だけならまだしも、二泊三日って、そんな長い間比良くんと二人きりって……んがぐぐ……考えただけで心臓がもたない」 「わふっ」 愛犬に頭をむしゃむしゃされても、シャツを引っ張られても、クッションを分捕られてもノーリアクションでいた柚木であったが。 「よいしょ」 ふと起き上がると勉強デスクへ向かった。 間違いだらけの宿題を見直すのかと思いきや、プリントを仕舞ったスクールバッグではなく、引き出しに手をかける。 一番物が少ないその引き出しには二つのボタンと壊れたサングラスが入っていた。 「こーら、食べちゃだめ」 興味津々に覗き込んでくる大豆を片手で制し、回転イスに座った柚木は日常生活にとことん無用なアイテムを眺める。 (高校生にもなって宝物ができるなんて思わなかった) 縁に赤いレンズがこびりついているサングラス。 どこに帰るのかと問いかけてきた<マストくん>が否応なしに思い出される。 (その直後、ぶちゅってされた) 比良くんとマストくん。 たまーにダブるんだけど、はそれぞれほんと違うというか。 同じ体なのに、ああも変わるの、なんでだろ……。 指遣いとか……。 舌の動かし方とか……。 どっちにも過剰反応してるおれは一体全体なんだろう!? 「あ~~~!!」 大豆を抱っこした柚木はフカフカな後頭部に顔を突っ込んだ。 (だってさ、二泊もしちゃったらさ) それって最後までシちゃうんでないの……? 「どうしよう」 フカフカな耳越しにぼんやり目にした、窓の向こう側、ざあざあ降り続く長雨。 やがて。 長らくどんよりしていた空が眩しげに晴れ渡り、梅雨明けの兆しを見せ始めた七月上旬。 「やったぁ……オール平均点以上、達成したぁ……!」 期末考査の答案がすべて返却された。 中間考査の成績が散々だったために、今回は必死こいて頑張った柚木、全科目平均点クリアが嬉しくてちょびっとだけ泣いた。

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