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21-1-もうすぐ夏休み
「俺の張ったヤマが見事に当たったワケですねェ」
「この私が直々に教えてあげたんだから当然の結果よ」
休み時間、柚木の席の両サイドに立った二人のアルファは自信満々に言う。
「俺のおかげに決まってるよな、ユズ?」
半袖の制服シャツを第二ボタンまで外した、はぐれアルファこと谷は団扇ではなく和柄の扇子をパタパタさせながら問いかけた。
「私の指導のおかげで全科目平均点越えが達成できた、そうよね、歩詩?」
六月中に長かった黒髪をバッサリ切った、アルファの女王サマこと阿弥坂も威圧的に両腕を組んで問いかけた。
二人に挟まれた柚木はわざわざ立ち上がって回答する。
「平均点以上どころかっ、今までのテストで一番いい結果出せたのは二人のおかげです! ほんとに二人ともありがと! 地獄の夏休み補習回避させてくれてありがとーーー!!」
泣き笑い中のへっぽこオメガに全力感謝されて満更でもなさそうに二人は相好を崩す。
「素直でよろしい」
「フン。当たり前じゃないの」
再来週には球技大会がある。
一学期の終業式はその翌日だった。
大学受験を控える三年生は追い込みをかける重要な時期だが、それでもやっぱり遊びたい、楽しみたい、思い出づくりがしたい。
柚木達二年生や一年生の多くは夏休みをただただ満喫したい。
そんなわけで夏本番を前にして全校生徒の大半が浮かれていた。
「夏休み前記念に撮ろー」
近くにいたクラスメートがSNSにアップする写真を撮っていた。
浮かれすぎではと思う反面、テストで好成績を収めて一安心した柚木自身、浮かれていないこともなく。
「夏休み前記念? 馬鹿馬鹿しいわね」
「お……おれ達も撮ってみる?」
「ッ……歩詩が撮りたいのなら仕方ないわね、馬鹿馬鹿しいにも程があるけど付き合ってあげる」
「女王サマ、キャラ変したンでしょーか、いつの間にツンデレキャラになったンでしょーかね」
「なによそれッ、下らないッ、このクズ谷!!」
「と……撮っちゃお……ぱしゃり」
「女王サマ、髪切ってから雰囲気変わったよね」
「そーかな? 前と同じで女王サマっぷり健在じゃ?」
「てかさ、最近やたらユズくんに構ってない?」
昼休み、教室でベータの友人と昼食をとっていた柚木は「阿弥坂さんはショートも似合うよね、顔ちっちゃい」としみじみ感想を述べた。
「それはさ、多分、あれだよ」
「あれ?」
「丁度一ヶ月前くらい、学校に最後に来た日に比良クンが言ってたじゃん、ヘイトは拒絶するって」
「あー」
「だから、比良クンに拒まれないよう、これみよがしにユズくんに構ってヘイト卒業アピールしてるとか」
「比良クン、オンラインで学校来てないのにアピる意味ある? それに他のオメガとは相変わらず距離おいてない?」
「あれー」
(おれがあんまりにもヘラヘラのだめだめだから、阿弥坂さん、一から躾け……鍛え直そうとしてくれてるのかも)
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