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柚木はメールや電話のやり取りを比良とあまり交わしていなかった。
ーー携帯越しだと物足りない
ーー柚木に直に会いたくなる
(……もったいなきお言葉……)
「他に案はないですかー?」
「おばけ屋敷は!?」
「床に大きなすごろく作ってリアル人生ゲームとか!」
帰りのホームルーム。
二学期の文化祭でどんな出し物をするか、企画委員が進行を務めて話し合いが行われている中、柚木はこっそり携帯を見ていた。
数少ない比良とのやり取りが記されたメール画面に重症よろしく見惚れていた。
「先生、今、オンラインで比良クンを呼び出すことってできないんですか?」
しかし比良の名前が出てくると慌てて顔を上げた。
「せっかくだし、比良クンも話し合いに参加してもらったらどうかな」
「うーん。シュウくんは学校行事への不参加が決まってるからなぁ」
「文化祭も授業みたいにオンライン参加してもらったらいいんじゃ?」
「どうかな、オレは反対。ちょっと残酷に思える」
「来たくても来れない状況なんだし、さすがに、な」
「残酷とか大袈裟だよ。気軽に文化祭の雰囲気とか感じてもらうの、アリだと思うけど」
「修学旅行でも同じことするの? やりすぎ感ない?」
比良の学校行事へのオンライン参加について真剣に話し合うクラスメート。
意見を出す積極性がてんでない柚木は、同級生らの白熱した様子に尻込みする始末だった。
谷は我関せず、手首に引っ掛けた革のブレスレットを手持無沙汰にいじっている。
過激なまでの積極性を誇っているはずの阿弥坂も、珍しく口を閉ざし、携帯を握って所在なさそうにしているへっぽこオメガの後頭部を見つめていた。
「比良自身の都合もあるからな、そこは一旦保留にして、一先ず今日は出し物を何にするか決めておこう」
帰りのホームルームは延長した末、出し物の案をいくつかに絞り、明日多数決をとることになった。
「阿弥坂さんのお口に合わないかもだけど、ここのパフェ絶品だから、何卒……!」
放課後、柚木は勉強を教えてもらったお礼に阿弥坂にファミレスのパフェをご馳走した。
「不味い」
「……がーーーん……」
「嘘よ。食べられないことないわ」
「っ……だよね! ここのパフェっ、食べられないことないよね!」
「絶品と謳ったパフェを堂々とディスるユズ」
ページどころか行数レベルで完璧なヤマを教えてくれた谷にはオムライスをご馳走していた。
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