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通学路で耳にするようになったセミの鳴き声。
アスファルトを滾らせる情熱的な西日。
(夏だなぁ)
アイスクリームを食べていた柚木は、冷房がガンガンに効いた店内からまだ明るい夕方の街を眺めた。
「ユズ、バニラアイスが溶けてますが」
「食べるの遅いわね。暑さで脳みそまで溶けてるんじゃないの」
(阿弥坂さんと一緒に放課後を過ごすなんて、ちょっと前のおれには想像もつかない事態だろう)
去年の夏とぜんぜん違う。
たった一年の間で、ううん、高二になって世界が変わったよーな……。
……うん、言い過ぎた、相変わらずへっぽこのまんまだし、身長も大して伸びてないし。
『柚木、ラッコの真似してるのか?』
(……月とスッポン、高嶺の花、遠い存在だったのに……)
「比良のことでもお考えですか」
「ぶほッッ」
隣に座る谷にまんまと言い当てられて柚木はおばか正直に動揺した。
向かい側ですでにパフェを食べ終えていた阿弥坂はあからさまに眉を顰める。
「歩詩、一限の世界史で居眠りしていたでしょう」
「ヒィ……なんで知ってるの……」
「五限の古典も怪しかったわね」
「ヒィ……」
「期末が済んだからって気を緩めないで。さっきの話し合いのときだって、ずっと携帯を見てた。心底なってないわね、貴方」
「ごめんなひゃい」
「ユズのこと、よーく見てるねェ、女王サマ」
「別に見てないッ、偶々視界に入っただけッ、ただの偶然よッ」
何かとキレちらかす女王サマは顔を赤くして、ちょっかいを出してきた谷ではなく柚木を睨んだ。
「そんなに気を緩めてたら球技大会で怪我するわよ」
「えーと。おれは補欠だから大丈夫」
球技大会の種目はバレーボールだった。
全学年入り乱れてのクラス対抗・トーナメント戦であり、柚木のクラスは優勝候補に挙げられている。
比良の不在は多大な損失に値したが、阿弥坂をはじめスポーツ万能なアルファが多く、バレー部員も複数いるので教師陣からも期待されていた。
「来週から放課後練習が始まるんだよね」
「俺はパス」
「谷。ルールが守れない単独行動派でルーズなサボリ魔。とことん気に喰わないけれど、練習には参加してもらうわよ。比良クンがいない今、少しでも戦力がほしいの。たとえクズの戦力でもね、あるに越したことないでしょう?」
「俺さ、運動熱血キチと相性悪いンです」
「このクズ谷、キチってどういう意味よ、教えなさいよ……!」
(おれは補欠だから練習出なくてもいいかな)
「ううう~……話が違う~……手首がもげる~……!」
クラスのバレー部員の一人が部活中に軽傷を負った。
よって補欠の柚木が代わりを泣く泣く担うことになったのだが。
「歩詩、ボールから逃げてどうするの」
「どれだけ足を引っ張るか見物だな」
「ケガしたら自分で処置よろしくな、保健委員の柚木君?」
男女混合、一クラスにつき4チーム編成、試合終盤を担当するアルファ揃いのチームに入れられてしまった。
(女王サマの猛烈アタック、当たったら手首どころか腕ごともげる!!)
地獄の猛特訓のはじまりはじまり……であった。
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