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21-4
球技大会、当日。
「負けた、か」
「シュウくんがいたらきっと優勝してたな」
「三年は最後の球技大会になるから。全力で勝ちにきたというか」
「アタシ達だって全力で戦ったわよ」
コートを仕切るネットの向こう側では勝利した三年生チームが大喜びしていた。
「でも……準優勝をこんなに誇らしく思うのは初めてかも」
「そうだな、確かに」
「インハイ予選を勝ち抜いたときよりも興奮した」
「柚木のおかげだな」
泣いて笑って飛び跳ねる優勝クラスを若干ヒき気味に眺めていた、チームの弱点として集中攻撃を食らい続けてクタクタな柚木はキョトンとする。
「はぇ……? どしておれのおかげ?」
「チームの弱点を皆でカバーし合って普段以上の団結力ができた」
「正直、準優勝も難しいかと諦めかけた瞬間もあった。でも自分の弱さを乗り越えてここまで来れた」
「達成感が半端ないわ」
アルファ性生徒らのあっぱれなまでの自画自賛に付き合わされ、クタクタな柚木は気力を振り絞って笑顔をつくった。
「よく頑張ったわね、歩詩」
柚木のことをちゃんと労ったのは阿弥坂くらいだった。
(疲れて、疲れて、疲れたぁ……)
早く帰って、シャワー浴びて、アイス食べて、大豆枕で寝たい……。
「よし、柚木を胴上げするか」
(おれのせいで負けたのに胴上げってイヤガラセでしかなくない!?)
ノリノリの運動部員アルファにあれよあれよという間に担ぎ上げられ、胴上げされる羽目になったへっぽこオメガ。
前に自分の頭を叩 いたことがある、練習中も散々馬鹿にしてきたバレー部員からは「やればできるじゃないか」なーんて言われて、苦笑いすら浮かべる気力も失せた。
(こんな熱血展開、むり中のむり、です)
オメガヘイトであるはずのアルファ生徒もこぞって参加した胴上げ。
柚木のクラスどころか他の学年のクラスまで拍手を送り始めた。
ベータの友人らは柚木の今の気持ちを汲み取って何とも言えない表情を浮かべ、試合の序盤に毎回ちんたらプレイしていた谷はこれみよがしに失笑していた。
(早く帰らせてくれ~~!!)
「写真撮ろ!!」
「準優勝記念っ」
「明日は終業式!」
「明後日から夏休みっ!!」
コート上での写真撮影の際はもうほぼ意識を失いかけていた。
誰の携帯で誰と撮っているのかも認識できない有り様であった。
「おーい、ユズ、半分寝てます?」
「歩詩、貴方一体どこ見てるの」
「ふにゃ……ほっぺた、つねんないで、おねーひゃん……」
そうして地獄の球技大会は梅雨明けと共に幕を閉じた……。
体育館で行われた終業式の半分を柚木は居眠りして過ごした。
「ユズくん、爆睡してたな」
「昨日の疲れがモロにきたか」
教室へ戻る途中、渡り廊下で友人に言われて柚木は返事を濁す。
連日の放課後練習、球技大会本番の疲れも、もちろんあった。
しかし寝不足の理由はそれだけじゃあなかった。
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