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体育館から教室へ移動し、担任が戻ってくるまでの間、生徒達は夏休みの話に花を咲かせた。 「ユズくん、来月の川祭りは……あれ、ガチで寝ちゃってる?」 机に突っ伏してウトウトしていた柚木は、友人に悪いと思いながらも呼びかけをスルーした。 (眠い) 冷房を点けたばかりでまだ蒸し暑い教室。 首筋にじんわり汗をかいた。 (暑い) 室内を満たすおしゃべりが薄いベールを通して聞こえてくるような。 押し寄せてくる眠気に追い立てられて意識外へ弾かれていくノイズ。 (本気で寝ちゃいそーだ) まだ冷気が熱気に負けている生暖かい教室の片隅で睡魔の誘惑に屈していく。 「歩詩、また居眠りしてるの、だらしないわね」 (阿弥坂さん……ごめん、今、恐ろしく眠い……) 「女王サマの特訓がよっぽど応えたんだろなー、かわいそーに」 「何よ……私はただ、歩詩と同じチームでプレイができたらって……」 (おれの席のそばで谷くんと阿弥坂さんが話してる……ここじゃなくてもよいのでは……?) 柚木は鼻で小さく息をついた。 ひんやりした場所を探し、机の上で腕をもぞもぞ動かす。 明日から夏休みだ。 いつもなら手放しで喜ぶ。 遅寝遅起き三昧、大した計画も練らずに友達と近場で遊んだり、家族と小旅行へ出かけたりと、小学生の頃と変わらず胸をワクワクさせていた。 でも今年の夏は違った。 微かな緊張感。 昂揚感と紙一重のスパイスが程よく効いていた。 (……なんか静かだなぁ……) もしかしたら担任が到着したのかもしれない、しかし生活態度の基礎を守る心構えよりも眠気の方が大勝利して、柚木は起き上がれずにいた。 (あ……寝る……残り数秒で寝る……) やっと涼しくなってきた教室。 舞い降りた不自然なほどの静寂。 机に突っ伏しているへっぽこオメガの元へ彼は辿り着く。 「柚木」 腕の内側で閉ざされた柚木の瞼がピクピクと痙攣した。 ここにないはずの声。 夢だと思った。 夢の中で彼に呼ばれているのだと。 「……ひらくん……」 「ああ」 「……比良くん……?」 「ああ、そうだよ」 閉ざされていた奥二重まなこが俄かに見開かれた。 突っ伏していた顔をおずおずと上げ、硬直している阿弥坂と谷の間に立つ、制服姿の別格のアルファを見上げた。 「おはよう、柚木」 寝惚けていたへっぽこオメガに比良は笑いかけた。

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