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「大体、なんでわざわざご丁寧に教えてきやがった?」
好戦的な三白眼をひけらかして谷は問いかける。
突然の密着にカチンコチンになっている柚木を抱き寄せたまま比良は答えた。
「谷と阿弥坂。二人が柚木のそばによくいたからだ」
はぐれアルファも、アルファの女王様も、揃って眉根を寄せた。
一ヶ月以上、オンライン授業で教室に来ていない彼がどうしてはっきり言い切るのか訝しんだ。
「こんなときにメールのチェックかよ」
制服ズボンから携帯を取り出した比良に谷は苛立ちを露にする。
カチンコチンな柚木を囲う、敬愛と羨望を捧げるはずのアルファの腕が憎らしく、矛盾する感情に阿弥坂も焦燥していた。
「今までSNSに率先して触れたことはなかった」
「は?」
「オンライン授業が始まってからは、教えてもらった皆のアカウントを見るようになった。教室の様子を知るのに一番便利なツールだった」
「どいつもこいつも好き勝手に撮りまくってるからな」
「時々、柚木が後ろに写り込んでいる写真や動画もあった」
「周囲のプライバシーに配慮してない証拠ですねェ」
「谷や阿弥坂も一緒に写り込むことが多い」
「……」
「この写真もそうだ」
比良はそう言って携帯の画面を谷と阿弥坂の方へ向けてみせた。
閲覧者を限定する鍵つきのアカウントであり、場所は教室、休み時間のようだった。
ポーズをとっているクラスメートの背後、机につく柚木が確かに写り込んでいる。
両隣には谷と阿弥坂がいた。
難しい顔をしているオメガの肩にアルファの二人はそれぞれ手を置いていた。
「勉強を見ている最中か? 似たような構図が他にもあった」
比良は携帯を仕舞った。
「現にさっきも寝ている柚木のそばにいただろう?」
美しく研がれた黒曜石の瞳が谷と阿弥坂を真摯に射竦めた。
「柚木を大事にしてくれている二人にだけは。必ず知らせておくべきだと思ったんだ」
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