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21-12
心臓を揺さぶる殺し文句に、掌の熱に、柚木は咄嗟に俯いた。
無性に堪らなくなる。
体の奥が疼いてしまう。
それまで性的欲求に疎く、あまり興味もなかったというのに、発情期 の巻き添えを食らって抉じ開けられた扉。
(……もったいない言葉をいっぱいくれる比良くんでも、きっと軽蔑するはず……)
ホテルでのことを思い出して、おれが寝不足になるまで一人でシちゃってるなんて知ったら、ヒくに決まってる。
(この秘密はお墓まで持ってこ)
「あの夜のこと。柚木は思い出すか?」
コインパーキングに駐車して車を降りた後のことだった。
真夏でも安定の黒ずくめコーデである櫻哉の後ろを歩いていた柚木は、隣に並ぶ比良を見上げた。
正午過ぎの炎天下。
真夏日の日差しを惜しみなく浴びた彼は不意に顔を寄せ、思わず立ち止まった柚木の耳元でそっと囁いた。
「俺は何回も思い出した」
その囁きは。
セミの鳴き声や車の走行音にほとんど掻き消された。
前を歩く櫻哉にも聞こえなかった。
悪戯っぽく笑んでみせた比良はすぐに顔を離し、柚木はくすぐったい余韻が残る片方の耳をぱっと塞いだ。
「その先を思い描いたりもした」
次の囁きを唯一掬い上げた片方の鼓膜がピリピリと痺れたような気がして、ついつい両耳とも塞いだ。
(こんなの敵わない)
明日から二泊三日のお泊まりが始まる。
比良くんと二人きりの日々が……。
「どうしました? 大丈夫ですか?」
立ち止まっている二人に気づいた櫻哉が振り返り、比良は「大丈夫です」と返事をし、まだ両耳を塞いでいる柚木に歩行を促した。
「柚木。ラッコの真似をするのは可愛いし、いくらでも見ていたいけど、沿道では危ない」
(別格のアルファ、無敵がすぎる!!)
「ッ……比良くん、腰抱かないで、このままウチ帰ったらお母さんがびっくりする」
「じゃあウチの前まで、な」
「ご、ご近所さんに見られる~……ふぎぃ~……」
(……夏休み初日の明日から大イベントのはじまりはじまり、です……)
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