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22-1-お泊まり一日目

「柚木!」 終点となる大学前の停留所。 一時間ほど乗車していたバスから満遍なく熱せられたアスファルトに降り立ったとき。 抱きつきそうな勢いで駆け寄ってきた比良に、チェック柄の襟シャツを着た柚木は、あまりの尊さに怖気づいてバスの車内へ後戻りしそうになった。 「お疲れ様。待ってた」 「比良くん、汗……」 何とか踏みとどまった柚木の後ろでバスが発進する。 背中に排気ガスを浴びながら棒立ちになっているへっぽこオメガの真正面で、ネイビーにストライプ柄が薄く入った七分袖シャツ、インディゴブルーのジーンズを履いた比良は、太陽も虜にしそうな笑顔を浮かべた。 (夏の太陽より眩しいなんてうそでしょ!!) 「……あれ、ウチで待ってるんじゃなかったっけ? 一人では外出禁止だって」 「じっとしていられなくて。母に叱責されるな。出張から帰ってきたら謝ろう」 バス停から比良の住むマンションまで、携帯の地図を頼りに一人で向かう予定だった柚木は首を左右に振った。 膝下丈のクロップドパンツのポケットからハンドタオルを取り出し、背伸びして、比良の額をぽんぽんする。 「お母さんにはナイショにしとこう?」 頭を屈めた比良はより一層笑顔を深めた。 ぽんぽんしてくれる柚木に「ありがとう」と幸せそうに礼を述べた。 比良が暮らす街は新興住宅地が広がる緑豊かなベッドタウンだった。 彼の両親が在籍している国立大医学部、その附属病院の他にも運動公園や文化施設が点在しており、ショッピングモール、飲食店なども充実している機能性に長けた郊外都市であった。 「今日は夕飯に出前を頼んでおいた。飲み物も一通り用意してある。アイスも洋菓子も、それに和菓子も」 「い、至れり尽くせり……」 植え込みが均一に刈られたバス通り沿いの舗道。 一日で最も暑い時間帯と言われている昼過ぎ、医学部の学生と思しき若者と何回か擦れ違った。 「やった、比良ジュニアと会えた、今日はツイてる」 「比良教授のこども? 似てたかな?」 (比良教授……お母さんじゃなくお父さんのことだよな?) 「比良くんのお父さんって、どんな人?」 「父はヒゲを生やしている」 「ヒゲ……!!」

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