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四季折々の草木に彩られた運動公園。 車道を挟んだ向かい側に比良の住むマンションは建っていた。 三階建ての低層型、レンガ造り風の外観はまるで洋館の佇まいだ、くすんだ色味がそれなりの築年数を物語っている。 奥行きのあるヴィンテージ感、見飽きない凝ったデザイン性といい、色褪せない魅力がぎゅっと詰まっていた。 「おかえりなさい」 清々しい風が吹き抜ける緑道から立派なエントランスゲートを潜ってロビーへ、掃き掃除をしていた初老の管理人に挨拶されて柚木は「たっ、ただいまです!」と慌てて返事をした。 郵便受けをチェックしてきた比良がオートロックを解除し、植栽と石畳が織りなす、建物にぐるりと囲まれた居住者専用の吹き抜けの中庭に出る。 アンティーク調のガーデンセットのそばを擦り抜け、瀟洒な手すりつきの階段を共に上った。 「お母さんもお父さんも、もう出発したんだ?」 「ああ、午前の高速バスで。柚木によろしくと言っていた。柚木のご家族はどうだった? やっぱり心配していたか?」 「うーん……特には……」 『歩詩が行きたいのなら行ってきなさい』 『でもね、前回と同じようなことが起こりそうになったら、すぐに帰ってくるんだよ? 家にも連絡するんだよ?』 『ふーた、まさかあんな男前クンとお泊まりなんてね、意外だわ』 『キューン!』 「……心配してたの、お父さんと大豆くらいだった」 「優しそうなお父さんだったな。お母さんもお姉さんも、俺のことを警戒せずに受け入れてくれてほっとした」 (それは比良くんが誠実で温厚でハイパー男前だからです) おれと比良くんって、やっぱり家族公認の仲? 恋愛関係になっても許される……? (……解せぬ……) 柚木は斜め前を進む比良の後頭部を見つめた。 (顔よし、性格よし、頭よし、スタイルもよし、もう一回顔よし、そんな比良くんがどうしておれ如きなんかを) 理由がいっこもわからない。 あれか、ないものねだりか、いわゆる真逆のタイプに惹かれるってやつか、月とスッポンだもん、お月様なら池の底の暮らしに確かに興味は湧くかもしんないなー、 「ぶふ!」 タイル張りの外廊下の途中で比良が急に立ち止まり、後ろを歩いていた柚木は広い背中に激突してしまった。 「今、俺のうなじを見ていたか?」 「!?」 「柚木の視線でヒリヒリした」 振り返って屈託なく笑った別格のアルファに、へっぽこオメガはやはり思い知らされる。 (後ろからの視線に気づくとか、別格のアルファ、マジで人知を飛び越えちゃってます)

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