180 / 333
22-3
「どうぞ、柚木」
初めて訪問した比良の家。
レトロな外観と違って内部はリノベーションされており、ナチュラルな木目調の床と建具、シンプルなインテリアがつくり出す柔らかな空間に出迎えられた。
「お、お邪魔いたします……」
サンダル一つ見当たらない広々とした玄関に柚木はまず混乱した。
(比良くんち、みんな靴一足しか持ってないの? ちょっとその辺までだったら裸足で出かける派……?)
実際は横のシューズボックスに収納されているのだが。
「どうぞ、スリッパだ」
「ふぁいっ、失礼しますっ」
「ここがサニタリールーム。奥にもう一つ、浴室のそばにある」
「サニタリー!? あっ、トイレのこと!? トイレ二つもあるんだ!?」
どこに続くのかわからない、廊下にやたらたくさんある扉にも混乱し、手洗いを済ませた柚木は目の前にあったドアを恐る恐るノックしてみた。
「そこはウォークスルークローゼットだ」
「インじゃなくてスルーしちゃう系……?」
「柚木はこの部屋を使ってくれ」
「ここは比良くんのお部屋……じゃなくて?」
リビングの手前にある洋室に案内された柚木は目を丸くさせる。
シングルベッドと折り畳み式のソファベッド、ラグが敷かれた床にはローテーブル、家具はそれだけで実にこざっぱりした六畳ほどの部屋だった。
「ここは来客用の部屋なんだ」
「来客用の部屋!!」
「父の友人が泊まりにくることがある。稀に酔い潰れた大学生が素泊まりしていくことも」
(ヒゲのお父さんってウェルカムな性格だったりするのかな?)
「オンライン授業はこの部屋で受けていた」
「へ~~!」
「エアコンは自由に使っていい」
「うん、ありがとうっ」
「こっちがリビングだ」
「うはぁ、広い……」
一体化したリビング・ダイニングは広々としていて自然光に溢れていた。
大きくとられた開口部、レースカーテンの向こうからは鳥の囀りがしている。
天井も高く、冷房が程よく効いていて、炎天下を歩いてきた身では思わず深呼吸したくなる快適ぶりだった。
「……」
「柚木、深呼吸してるのか?」
深呼吸を一回した柚木はもたもたとリュックを下ろす。
母親に持たされていた焼き菓子の詰め合わせなる手土産を比良に手渡した。
「どうぞ、です、比良くん」
「わざわざご丁寧に、どうもありがとう、柚木」
「つ、つまらないものですがっ、ささやかなものですがっ、粗品ですがっ」
謙遜の言葉を並べ立てた柚木に比良はクスッと笑う。
「俺はシャワーを浴びてこようかな」
(え!? まさか!! もう!!??)
「汗をかいたから流してくる。柚木は好きにしていてくれ。向こうがキッチンだから、飲み物も自由にとってもらって構わない」
比良はリビングを去っていった。
バランスがとれたレイアウト、ゆったりとした時間が流れる4LDKの中心となる場所に残された柚木は、リュックを抱え込んで項垂れた。
(意識しすぎて窒息しそーだ)
こんなんで二泊三日もつのでしょーか、おれ。
ともだちにシェアしよう!