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柚木はクッションが複数置かれたL字型のソファにちょこんと座った。
比良ファミリーが暮らすおうちを興味津々に見回してみる。
(比良くん、ひとりっこなんだよな)
壁で仕切られた独立型キッチンへ行くのも気が引けて、リュックの中で温くなっていたペットボトルのお茶を飲み干した。
「おれなんか」
尽きない劣等感。
スッポンの短い手がお月様に触れるなんてこと、あってもいいのだろうかと思い悩む。
『柚木と一緒に過ごせるなんて夢みたいだ』
今日のお泊まりを少年みたいに喜んでいた比良。
(いわゆる気の迷い)
疑心暗鬼が抜けない柚木は荷物でいっぱいのリュックをぎゅっした。
自分を好きになった理由が、きっかけがまるでわからずに眉を八の字にひん曲げる。
「だってあの比良くんだよ? 別格のアルファ様よ? 一体全体、どんなタイミングでおれに恋しちゃったの? 現在進行形で血迷ってる? 実は審美眼が狂ってる?」
(あれ……そういえば……)
『俺も入学式のときから……ううん、俺の方が柚木よりも先にーー……』
以前、自宅のベッドの上でマストになる寸前に比良が口にした台詞。
何とはなしに思い出した柚木は忙しげに瞬きする。
(おれは入学式の日から比良くんに憧れるようになった)
比良くんは入学式の前から、おれのこと知ってた……?
「いつから? まさか中学? え、小学校? 実は幼稚園の頃からーー」
柚木の独り言に加速がかかり始めた、そんな矢先のことだった。
バン!!
バルコニーで突然激しい物音がした。
ぎょっとした柚木はリュックをぎゅっしたまま立ち上がる。
窓ガラスに何かが勢いよくぶつかったような音で、レースカーテン越しにもぞもぞ蠢くシルエットが見え、さらにぎょぎょぎょっした。
バン!!!!
「ひッ……おばけ……!」
正体不明の「何か」をおばけと言い表して園児並みに怖がった柚木、リュックをポイしてリビングから大慌てで逃げ出そうとした。
「柚木」
振り返れば目の前には半袖のTシャツにハーフパンツというラフな部屋着姿の比良がいた。
急ブレーキもかけられずに柚木はそのまま彼の胸へ飛び込んだ。
「おおおおっ、おばけ!! おばけが出た!!」
憧れのクラスメートに残念にも程があるへっぽこっぷりを惜しみなく披露してみせた……。
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