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カラスは窓ガラスを突き破ることなく巣に帰っていった。
「うはぁ~~! エビ天~~!」
早めの晩ごはん、届いた出前は大好物であるエビ天メインの天ぷら盛り合わせに海鮮丼であり、豪華な内容に柚木は目を輝かせた。
「すごいすごい!! おいしそ!!」
柚木は園児並みに大はしゃぎし、ただでさえ緩みがちな頬を比良はさらに緩めた。
(待てよ、でもめちゃくちゃお高そうでは?)
「支払いのことなら柚木は気にしなくていい」
「ふぉぉ……で、でもなぁ〜……」
「報酬は受け取らないと言っただろう? その分を食事にあてると母が言っていた」
「でもでも! そもそも!? 普通のお泊まりに報酬なんて必要ないし、それに前にもお昼ご馳走してもらったし!?」
「気にしなくていい」
頭をポンポンされて柚木はそれ以上何も言えなくなった。
「柚木、何を飲む?」
「あっ、おれも手伝う!」
四人掛けのダイニングテーブルに料理を並べ、取り皿やグラスをとりに奥のキッチンへ向かった比良の後をついていく。
自然光を取り込む突き当たりの大きな窓が最初に目を引いた。
片づけられた調理台に磨かれたシンク、整理整頓が行き届いた食器棚、どこにも見当たらない油汚れ、何とも隙のないキッチンだった。
「ショールームみたい」
「家事代行にお願いしているんだ」
「うはぁ~なるほど~」
「綺麗にしてもらったばかりなのに、アイスを落としたりコーヒーを零したりして父がうっかり汚すことがよくある」
「へ……へぇ〜……」
(ヒゲのお父さん、カラスにエサあげたり、うっかりしたり、ちょっと親近感湧くな)
「冷蔵庫でかいっ」
「アールグレイ、炭酸水、ほうじ茶、どれがいい?」
「えーと、ほうじ茶をお願いしますっ」
「お皿はそこの棚から適当にとってくれるか?」
「適当に!?」
「そうだな、一番下に並べている波佐見焼のにしよう」
「は……はさみやき、りょーかいです」
とりあえず食器棚を開き、どれが波佐見焼なのかわからずに柚木は立ち尽くす。
冷蔵庫から炭酸水のペットボトル、ほうじ茶のピッチャーを取り出した比良は、そんなへっぽこオメガの姿に正直な感想を述べた。
「柚木が家にいるなんて不思議な感じだ」
「比良くんがウチにきたとき、おれも同じこと思ったよ」
「俺のお嫁さんみたいだ」
「お嫁さん!? う゛ッ! ごほぉ゛ッ!」
俺のお嫁さん発言に柚木は盛大に噎せた……。
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