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(お嫁さんだなんて)
冗談なのか本気なのかわからない!!
「本気だよ」
心の内を読まれた柚木はより顕著に立ち尽くした。
キッチンテーブルに飲み物を下ろした比良に、そっと寄り添われると、心臓がビックン過剰反応した。
「これが波佐見焼だ」
白磁に深みある藍色の花模様が絵付けされた長角皿を二枚、手渡される。
「お腹、空いただろう。早く夕食にしよう」
雫を含んだ前髪の先が黒曜石の瞳にかかっている比良は、ふと身を屈め、柚木に軽くキスをした。
夏休みのお泊まりに年齢相応に浮かれたというか。
抑えられない愛情が溢れ出したというか。
「おいで」
他の食器をトレイに乗せて比良はダイニングへ。
お皿だけを持たされた柚木は、数秒間、その場でかたまっていた。
(普通にさり気なくキスされた)
な……っんてことしてくれちゃってんだ、比良くん。
どんな顔して一緒にごはん食べればいーんだよぉ……。
「おいひい! このエビ天おいひすぎる!」
心配を杞憂に終わらせた柚木、割烹出前の料理の美味しさに舌鼓を打ちまくった。
「ナスの天ぷらも美味しくないか?」
「天ぷらも海鮮丼も全部おいひい!」
ゆっくりと暮れ出した夏の午後。
リビングのテレビは消され、表の緑道や中庭から蝉の声が夕日に染まったレースカーテン越しに聞こえてくる。
他の住人の気配はしない。
穏やかな静謐が流れる夕暮れだった。
「柚木がとても美味しそうに食べるから料理をしてみたくなる」
「比良くん、料理しないんだ?」
「ああ」
「おれはパスタと簡単な鍋料理くらいだったらできるよ」
「そうなのか。いつか俺に教えてくれないか?」
「教えるほど大した料理じゃないよ? 冷蔵庫にあるものでテキトーに作るレベルだよ?」
「そんなことできるのか。柚木はすごいな」
比良と二人きりで過ごす食事の時間は純粋に楽しかった。
「デザートの前に片付けてくる」
「おれも手伝う!」
「柚木は座っていてくれ。テレビ、何か見るか?」
普段ならば家の夕食はもう少し後、お手伝いをしているかバラエティ番組を見ている時間帯だが、柚木は首を左右に振った。
「レモンケーキとガトーショコラ、どっちがいい?」
「えーとえーと、どっちでもいい」
「それなら、どっちも持ってこよう」
「そんな贅沢しちゃっていいの!?」
(マストくんは大人しく眠ってるみたいだ)
実は夏バテしてるとか……?
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