186 / 333
22-9
比良の回答を聞いた柚木は「何も言えねぇ」状態になった。
交えていた視線を不自然に解き、顔を伏せ、残りのケーキをもっそもっそ食べた。
「……ごちそうさまでした……」
(比良くんがあんなこと言うから、最後の方、味がよくわかんなかった)
「柚木」
柚木は伏せていた顔を上げる。
席を立ち、テーブルを回って隣にやってきた比良に目をやった。
無言で手を差し出してきた彼に再び過剰反応する心臓。
キッチンでの出来事が脳裏を過ぎり、反射的にぎゅっと目を瞑った。
「ついてる」
比良は柚木の口元につきっぱなしのケーキの欠片を指先で摘まんで取った。
目を開けた柚木は自意識過剰な自分が恥ずかしくなり、アイスココアをがぶ飲みしたのだが。
「ぶぶふッ!」
摘まんだケーキの欠片をパクリと食べた比良にまたも盛大に噎せた。
「レモンケーキの方だったな」
「ごほッ……た……食べちゃだめだよ、比良くん……」
「柚木はどうなんだ?」
何を問われているのかわからず、キョトンしている柚木の肩に手を乗せ、比良は再度尋ねる。
「今日のこと。そこまで楽しみにはしていなかったんだろうか。やっぱり修学旅行の方が楽しみか?」
「え!? そ、それは別物っていうか、それはそれ! これはこれ! じゃない!?」
「そうか……」
柚木に触れたまま比良は顔を背けた。
「そうなのか……」
明らかにしょんぼりしている。
別格のアルファのわかりやすいしょ気っぷりに柚木は口をパクパクさせた。
(ごはんが足りなかったときの大豆みたい……じゃなくて!!)
「おれはっ……比良くんと修学旅行、一緒に行きたかった」
肩に置かれている大きな手を上からきゅっと握る。
まだそっぽを向いている比良を一生懸命に見上げ、自分の思いを伝えた。
「行事に参加できないって教室で聞かされたとき、ショックだったし、仕方ないって気持ちもあったし、でもやっぱり寂しかった……一緒に観光地を回ったり、お土産屋さんウロウロしたり、ご当地ラーメン食べたかったなぁって……あとみんなで枕投げしたかった」
「柚木に枕なんか投げられない」
「遊びだよ、比良くん……たまにガチで痛かったりするけど、まーまー楽しいよ?」
「楽しいのなら今から二人でするか?」
二人っきりで枕投げというシュールな光景が頭に浮かんで、柚木は、思わず笑った。
(でも確かに、おれも比良くんに枕なんて投げられないか)
肩の振動が掌に伝わってきて、比良は、柚木に視線を戻した。
自分の手に手を重ね、リラックスした風に笑っているへっぽこオメガに極自然に次の言葉を誘われた。
「好きだよ」
ともだちにシェアしよう!