187 / 333

22-10

柚木はピタリと笑うのを止めた。 他者を易々と魅了する別格のアルファの微笑みを一身に受け、愛情の鎖に心臓をガチガチに束縛されて、恍惚とも戦慄ともわからない感覚に囚われた。 (食べられちゃってもいい) そんな危うい思いが湧いてくるくらいに魅入られた。 睫毛を伏せ、伏し目がちになった比良はおもむろに身を屈めていく。 狭まっていく隔たりに柚木の瞼は余計な力を孕まずに、自然と閉ざされていく。 キスされる。 そう思って健気に待っていたら。 「……」 額に軽く口づけられた。 この上なく優しいライトキスだった。 「いつか柚木と二人で旅行に行けたらいいな」 頭を撫でられて柚木は目を開ける。 「ご当地ラーメンを食べて回ろう」 長い五指が丁寧に髪を梳き、身も心も溶けていきそうな心地よさに骨抜きになりかけながらも、こっそりがっかり、した。 (口にされると思ったのに) ……。 …………。 がっかりするなんて何様だ、おれ。 欲求不満か、おれ。 へっぽこのくせに、スッポンのくせに、おっちょこちょいのくせに!! 比良くんからのお恵みデコチューを物足りなく感じるなんて、ばかばかばかばか……!! (意識しすぎて頭パーンしそう)

ともだちにシェアしよう!