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22-11
向かい側に戻って冷めたホットコーヒーを飲む比良をチラリと見、次に柚木は窓辺へ目を向けた。
(いつの間にか、もうすっかり夜になってる)
これから、どーするんだろ。
部屋は用意されてたけど別々に寝るのかな。
トランプとかしちゃうのかな。
どのゲームでも負ける気しかしないんですが。
(……それとも、もしかして……)
「テレビでも見ようか」
またも後片付けを一人で速やかに終えた比良は、リビングの壁側に設置されているテレビを点けた。
バラエティ番組のカラフルなセットで室内がぱっと明るくなる。
L字型ソファの角に腰かけた彼の隣に柚木はちょこんと座った。
「テレビ大きいな~、こんな大画面でホラー見たら失神しそう」
「ホラー映画なら休日の深夜に両親がワインを飲みながら見てる」
「ワイン飲みながらの深夜ホラー……」
「ほら。柚木の好きな犬が出てる」
「いっぬ~~!」
単純な柚木はワンコ大特集に素直にはしゃいだ。
「秋田犬~! もっふもふ! でっかい! 撫でてみたいな~!」
家のリビングにいるときと同じテンションでワンコ大特集に夢中になるへっぽこオメガ。
緊張したり笑ったり、怖がったり喜んだり。
表情がコロコロ変わる柚木に今日半日で比良は新たに心を奪われた。
庇護欲を掻き立てる細い肩を抱き寄せる。
ソファの上で互いの体をぴったり密着させた。
「いつか一緒に秋田犬を撫でにいこう」
比良の心音が今にも聞こえてきそうな……。
おかげで大好きなワンコ大特集にろくに集中できず、賑やかな音声は耳の外を味気なく通り過ぎていくばかり。
柚木の鼓膜が実際に掬い上げたのは、耳元で紡がれる、それはそれはかけがえのない息遣いだった。
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