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22-13
「お風呂、長かったな、柚木」
「そ……そうだった……?」
「湯当たりしたのかと思った。上がるのがもう少し遅かったら様子を見に行くところだった」
ソファに浅く座って消されたテレビを前にしていた比良は立ち上がった。
リビングへ戻ってきた柚木のすぐそばへ歩み寄る。
「ドライヤーは使わなくてよかったか?」
「うん。自然乾燥だから」
「そうか、俺もだ」
ライトのほとんどが消灯されて、ほっとするようなノスタルジックな橙色に浸 った部屋。
本日のお泊まり用にと姉がプレゼントしてくれた五分袖のシャツに半ズボンを着用し、履き慣れないスリッパを脱衣所に忘れてきた柚木に比良は言う。
「柚木の部屋の冷房、点けておいた。設定温度を低めにしたから、寒かったら上げるといい」
「ご丁寧にどうも、です」
「寝具一式は前日にクリーニングに出しておいた」
「重ね重ね、ありがと……です」
ふかふかのタオルを肩に引っ掛けて恐縮している柚木に、比良は、にこやかに告げた。
「おやすみ」
(おっ……おやすみされた……!!!!)
お客様専用のお部屋で柚木はしばし放心していた。
(おやすみ……おやすみ……おやす……)
比良からにこやかに告げられた「おやすみ」が頭の中で木霊し、数分後、わっと顔を覆った。
(恥ずかしい!!)
てっきり、そーいう流れになるって思ってた!!
でも、そう思ってたの、おれだけだったみたい!!
(自意識過剰のかたまり!!)
シングルベッドに倒れ込んで「ん゛ん゛ん゛」と一人こっそり身悶える可哀想なへっぽこオメガ。
五分後、ふと、むくりと起き上がってドアを見つめた。
ドア越しに伝わってくる比良の気配に五感が攫われていく。
(今からお風呂かな)
廊下を進む足音、扉の開閉音。
決して騒音というわけではない。
彼によって奏でられる些細な生活音は優しくじんわり心に染み渡った。
冷房の温度を上げた柚木はリュックを手繰り寄せ、数時間振りに携帯を見、家族から届いていた複数のメールに慌てて返信を打った。
夜の十時前、友達からの他愛ないメールにも返信してベッドに仰向けに寝転ぶ。
隅々まで冷風が行き届いた、こぢんまりした部屋で、のんびり背伸びをした。
(そだな、そーいうことは抜きにして、もうちょっと比良くんと夜更かししてみたかったな)
「……朝ごはんのサンドイッチ、楽しみだなぁ……」
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