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「俺が最初に柚木を見たのは入学式の前だった」 お泊まり二日目の夜。 柚木は初めて比良のお部屋へ招かれた。 隅々まで片づけられた室内のインテリアはほとんどがモノトーンで高校生らしからぬ大人びたモード系、洗練されたコーディネートだった。 ベッドサイドテーブルに置かれた卓上ライトだけが点されている。 布張りの一人掛けソファを見、ここに座って一人のリラックスタイムを過ごしているのかと思うとウズウズして、柚木は指先で背もたれにちょんと触れてみた。 「そこに座るか?」 「あっ、えーと、どこでもいいよ」 「じゃあ、ここに」 そう言って比良が促した先は丁寧に設えられたベッドだった。 裸足でペタペタと床を鳴らして遠慮がちにオメガが腰かければ隣にやってきたアルファ。 拳一つ分の隙間、今にも触れそうな膝と膝の距離に柚木はついゴクリと喉を鳴らす。 (こんなんで動揺してどーする、おれ) 今から……いよいよ……抱かれちゃうっていうのに。 (覚悟はしてきた、捧げたいって思ってる、でもやっぱり、でもでもでもでも……!) 時刻は夜の九時過ぎ。 昨晩と同じ時間帯に近場のイタリアンレストランに配達してもらったオードブルの夕食を済ませ、すでに二人ともそれぞれ入浴を終えていた。 共有されたマリンムスクの香りが互いの隙間を満たしていく。 「肩に力が入ってる」 半ズボンを意味もなく握り締めていた柚木は、比良に指摘されて苦笑いを浮かべた。 「おっしゃる通りです、うん」 「緊張してるのか?」 「その通りです……」 自分を正視できずに斜め下を向く強張った横顔に、正直なところ、比良はさらなる愛しさと欲望を募らせる。 「今、柚木が過度な緊張や怖い思いを抱いているのなら無理強いはしない」 「ッ……いやいや、だいじょーぶ、平気、そんな大したことじゃないから」 「そう言うと思った」 半ズボンを捏ねていた柚木は奥二重まなこをまん丸くさせた。 「柚木は誰よりも優しいから、な」 その優しさを誰にも分けたくないと比良は思う。 「俺が最初に柚木を見たのは入学式の前だった」 「っ……それなんだけど、もしかしておれと比良くんって幼稚園の頃に会ってるとか……?」 比良は声を立てて笑った。 笑われた柚木は見る間に顔を赤くする。 「そこまで遡らない。でも、それくらい昔に出会っていたならどんなによかっただろうな」 まだ斜め下を向いている柚木に比良はそっと笑みを浮かべた。 「正確に言うなら入学式の直前だ。母の運転する車で学校に向かっているときだった。あの日、俺は運命のオメガを見つけたんだ」

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