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22-16
柚木は小さく息を呑んだ。
ベッドのすぐそばに座り込んだ比良の切なる眼差しが直撃して、急に始まった鼓動のドラムロールに呼吸が途切れそうになった。
(落ち着け)
自意識過剰なおれがまた先走ってるのかもしれない。
もしかしたら健全な意味での夜更かしってことも……。
「……トランプする?」
柚木が問えば比良は首を左右に振った。
「……じゃあ、他のゲームする?」
比良はまた首を横に振る。
リネン素材のシーツに沈んでいた柚木の手を大きな手で覆い隠すと、視線を繋げたまま自分の欲望を率直に打ち明けた。
「柚木のこと抱きたい」
(……自意識過剰じゃ、なかった……)
マンションの中庭で夏の虫が鳴いていた。
目の前の相手に意識が集中している二人の耳には届かない。
「怖いか……?」
二人きりでいることが強調されるような狭い部屋、唐突な緊張感に襲われて目を回しそうになっていた柚木は。
自分の手を優しく抱擁してきた掌、穏やかな声色に緊張が幾分和らいで、こちらもまた正直に回答した。
「……一応、覚悟はしてきました」
「そうなのか。嬉しい」
「でも、その……今回のお泊まりは比良くんのお母さんにお願いされた手前、いいのかなって気持ちもあるし……それに、やっぱり、ちょっと怖い」
「俺も怖かった」
パーフェクト男子である比良が一体全体何を怖がるというのか、信じ難い発言に柚木は目を丸くした。
比良はさらにベッドに身を寄せる。
五分袖から伸びた柚木の腕に片頬を押し当てた。
「がっつきすぎて柚木に嫌われたらどうしようと思った」
トスッ……と、比良の放ったデレ満載の矢が柚木の心臓 に的中した。
「でも、がっつきたい」
トスッ……二本目の矢が間髪入れずにまたしても的中した。
薄闇の中で密やかに肌身を発熱させた比良は柚木の腕に頬擦りする。
濡れた前髪越し、破壊力が半端ない上目遣いで愛しのオメガをじっと見つめた。
「明日、柚木を抱いてもいいか……?」
まさかのお伺いを立てられて、トストストストスッ、何本もの矢が柚木の心臓に連続的中しまくるのだった……。
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