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斜め下を向いていたはずの柚木はいつの間に黒曜石の瞳に視線を奪われていた。 入学式の前に起こった、ちょっとした出来事を比良に目撃されていたなんて今まで露知らずに。 一目惚れだったと告白された瞬間、世界が一時停止したような気がした。 『柚木は犬が大好きだろう? 知ってるんだ、俺』 (比良くん、入学式前にそのシーンを見て、おれが犬好きだって知って……) 「一目惚れで、初恋だった」 そのとき世界は完全に一時停止した。 目の前にいる比良だけが柚木のすべてになった。 「柚木と番になりたいと思ったんだ」 出会ったその日から自分の世界の中心にい続ける、唯一の恋心を捧げるオメガに比良は微笑みかけた。 「……あのときのワンコはね」 「ああ」 「あの後、ちゃんと飼い主さんが見つかって、おじいちゃんだったんだけど、ついうっかりリードを離しちゃったんだって」 「そうだったのか」 「心配して、探して、先に向こうがおれを見つけて、駆け寄ってきて、転びそうになったから、おれまでめちゃくちゃ慌てて転びそうになった、二人ともギリギリ転ばなかったけど」 「二人とも転ばなくてよかった」 「おじいちゃん、サブちゃんくん抱っこして、よかったよかったって、ほっとしてた」 「犬の名前がサブちゃんなのか」 「サブちゃんくん抱っこして、喜んでるおじいちゃん見てたら、おれ、ちょっとだけ泣いちゃった……」 当時を振り返り、こどもみたいに熱心に報告していた柚木は口を閉じる。 比良に頭を撫でられた。 これまでの日々の中で一番優しい笑顔が目の前で咲き誇るように花開いていた。 「おれは比良くんのことが好きです」 こどもじみた報告からの唐突な告白。 急変した話の流れに比良は微かな笑声を奏でる。 「どうして敬語なんだ? 同級生で、恋人同士なのに……」 そう囁いて最愛なるオメガにキスをした。

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