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(待て、待てよ、ズボンだけ脱いでパンツはまだ履いてるかもしれない) またベッドが軋み、真上にやってきた彼の温もりを空気伝いに感じて奥歯をぐっと噛み締めた。 意を決して、部屋の隅っこに逃がしていた視線を恐る恐る移動させていく。 自分の両脇に両手を突き、体重をかけないよう覆い被さっている比良を視界の中心に捉えた。 「う!」 柚木は大きく息を呑んだ。 「は……はだ……裸……っ」 正直、全裸だとわかった瞬間、心の中では「きゃーーーー!!」と絶叫していた。 そして、その力強さに脱帽した。 <マストくん>のときにはご対面していた、しかし<比良くん>としてご対面するのは初めてだ。 いつの間にそこまで切羽詰まった状況になっていたのだろうかと、狼狽(ろうばい)したりもした……。 「幻滅するわけがない」 目のやり場に困って不審者並みに落ち着きがなかったへっぽこオメガは、黒曜石の瞳をおずおずと見上げた。 「そんな悲しいこと言わないでくれ」 凛々しく整った顔が遣り切れなさそうに歪んでいた。 柚木が咄嗟に片手を差し伸べれば彼はその掌に頬擦りしてきた。 「ごめん、比良くん」 自分自身を卑下したことを謝れば首を左右に振り、さらに鼻先を沈め、深く息を吸い込む。 「柚木は誰よりも魅力的だ」 不慣れにも程がある褒め言葉に柚木は閉口してしまう。 なだらかで広い肩。 さり気なく備わる厚い胸板。 手触りの良さそうな張りのある肌。 弓道部の活動は自粛しているものの、簡単な基礎トレーニングは欠かさず、無駄な贅肉などない引き締まった体。 「俺のオメガ」 掌に当たる唇の感触。 真摯に紡がれる直向(ひたむ)きな眼差し。 (やばい) 「あのさ、比良くん……おれ、前みたいに目隠ししてほしい……かも」 一糸纏わぬ比良に齎される破壊力の凄まじさに戦々恐々し、柚木は自ら目隠しを欲したが「今日は駄目だ」とはっきり断られた。 「今日は柚木の顔、見たい。柚木をひとつ残さず感じたい」 自分の鼓動が、時を刻む秒針のような音色がずっと聞こえていた柚木は瞬きを忘れて比良と見つめ合う。 (おれのアルファ) そんなことを思って途方もない昂揚感に蕩けた。

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