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かつて心中も厭わない心意気で<マストくん>を制御するつもりでいたへっぽこオメガだったが。 「はぁ……ッ……は……ッ……ッ」 すぐ真上で低く息を荒げながら律動する彼に柚木は思う。 (これじゃあ無理心中まっしぐらだ) そこは比良の部屋だった。 バスルームからびしょ濡れのまま素っ裸で移動し、ベッドの上で間をおかずして再開されたアルファとオメガの営み。 落ち着くどころか逆に力強さを増して濃厚さを帯びていく交わりに喉も嗄れ、腰から下を荒波ばりに波打たせる<マストくん>に柚木は縋りつこうとした。 (あ、でも……) 移動する際に目の当たりにしたその背中に驚かされた。 『こ、この痕どしたの、動物に襲われた!? あ! まさかあのカラス!?』 『お前に襲われた』 『へぁっ?』 『これはお前がつけた痕だ』 背中に複数見受けられた引っ掻き傷が、まさか自分がつけたものだとは夢にも思わず。 痕を残したという記憶がない柚木は呆然としたものだった。 (この美ボディにこれ以上傷なんかつけられない!) 背中に回しかけた手を引っ込める。 頭に敷いている横長の枕を引っ掴み、繰り返しやってくる恍惚の波状攻撃をやり過ごそうとした。 「今日は引っ掻かないのか」 引っ切り無しに雫を散らしてキレ味鋭く動く<マストくん>は柚木の逡巡に目敏く気がついた。 「ん……比良くんのお背中に……傷なんか……」 遠慮する素振りを見せれば。 意地悪に奥の奥へ。 蜜壷のコリッとした行き止まりに火照りっぱなしの頂きを上下左右に擦り当ててきた。 「や……!」 「つけろ」 「ぁっ、ぁっ……らめ……ぇ……っ」 蜜穴最奥をグリグリと小突いては未熟な子宮を揺さぶり、掠れた悲鳴を連ねる柚木に彼は告げる。 「お前の痕なら本望だ」 その一言にへっぽこオメガは一瞬で敗北した。 すっぽりと我が身に覆い被さる<マストくん>を力いっぱい抱きしめた。 「柚木、あのカラスよりも凶暴だったんだな」 「ふ、ぅぅ、ぅ……っ……カアカア……カアア……っ」 「ッ……おい、アイツはそんな可愛い声じゃない」 営みの真っ只中、カラスの鳴き真似に至ったムードクラッシャーなる柚木に彼はヒくこともせず。 「本当、いじめていじめて、どこまでも愛し潰したくなる奴」 背中の浅い引っ掻き傷とは比べ物にもならない、延々と長引きそうな深手を胸底に負って自嘲の笑みを零した。

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