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時間の経過がわかりづらい薄暗い部屋。 静かで単調な雨音に溶けていった、その呼号。 「……柚木……」 数秒間、閉じていた目を開けば<比良くん>に戻っていた別格のアルファ。 「……俺はまたマストになっていたんだな……」 あっという間に<マストくん>が眠りについて目覚めた彼に柚木はちょっとばっかし呆然とする。 (だんだん早変わりみたいになってない……?) 「おはよう、柚木」 「っ……おはよ……でも、もう夕方くらいだと思う、です」 「ベッドが濡れてる」 「おおおッ、おもらしとかじゃないよ!? マストくんが濡れたまま浴室から移動したせい!」 大慌てで理由を述べれば比良はくすぐったそうな、痛痒そうな、何とも言えない表情を浮かべた。 「……今、柚木のナカにいる」 「あ……うん……そろそろお帰りになった方がいーかな、と」 「声が嗄れてるな」 「あー……うん……」 「それに……首が痛い……柚木が噛んだのか……?」 なかなか我が身から出ていってくれない比良にムズムズが治まらない柚木は、すぐそこにある黒曜石の瞳から視線を逸らし、こっくり頷いた。 「ご、ごめん……痛いよね」 今更ながら<マストくん>から<比良くん>に瞬時に変わったことに心がついていかず、体を重ね合った状況で余所余所しい態度をとってしまう。 精一杯そっぽを向いている柚木に、物憂げに眼差しを伏せた比良はジリ……と胸底を焦がした。 「ずるい」 (へ?) 「俺も柚木に噛まれたい」 (いきなり何を言い出すんだ、比良くんは) 「……おれ、別に蚊じゃないし……」 戸惑いの目線だけ寄越してきた柚木との距離をさらに縮める。 鼻先が触れ合いそうなほどの近さで一時停止し、比良は言った。 「柚木がくれるものなら痛みでも取りこぼしたくない」 クチュ…… 芯の衰えないペニスで奥の奥をなぞられて戸惑いが激増した奥二重まなこ。 ならだかな肩に両手をあてがい、振って音を鳴らして遊ぶでんでん太鼓を彷彿とさせる仕草で首を左右にブンブン振った。 「む……むりっ……もぉいっぱい……した……っ」 「俺は眠ってた」 「そ、そんなのってなぃ……なぃなぃ……なぃぃ……」 大事なことなので三回以上も「ない」と言った柚木に比良は穏やかに言い返す。 「今からが俺と柚木の初夜だろう……?」 (何回初夜あるんだよーーーー!?)

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