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25-1-番になろうよ

「ただいま、柊一朗。はじめまして、歩詩君」 お泊まり最終日。 雨の上がった正午過ぎに比良の両親は帰宅した。 アルファの父親である昌彦(まさひこ)と初対面を果たした柚木は、予想を裏切るその姿に呆気にとられた。 (教授でヒゲっていうから、もっとこう、堅苦しそうな雰囲気でボーボー生えてるのかと思ってた) 息子と同じくらいの長身である昌彦は決してヒゲボーボーではなかった。 無精ヒゲというわけでもなく、口元と顎、きちんと整えられていて清潔感があった。 土台である顔立ちが優れているのも大きく作用しているのだろう。 ややクセのある柔らかそうな黒髪はナチュラルに適度にセットされている、面長ではっきりした目鼻立ち、黒目が大きく際立つ双眸と常時にこやかな唇が柔らかい雰囲気をつくり出していた。 「僕は柊一朗のお父さんです。どうぞよろしくお願いします」 そして声がいい。 落ち着いた深みのあるバリトンボイスに視覚どころか聴覚まで魅了されそうだ。 「はっ、はっ、はじめましてっっ、柚木歩詩ですっっ」 比良と一緒に玄関で出迎えた柚木は、学生は当然ながら大学職員にまで人気のある若々しい二枚目教授にタジタジになった。 (比良くん一家、顔面偏差値がえぐい!!) 二人とも抑制剤(サルベーション)開発に貢献した、すごい人達なんだよな。 おれだって中一から接種し続けてお世話になってる。 比良くんの両親がいよいよ二人揃って、なんだろ、めちゃくちゃ緊張してきたぞ……。 「柚木君には感謝の言葉もありません」 昌彦の背後にいた櫻哉の大袈裟な言葉に柚木は益々タジる。 「っ、いえいえ! 雨は大丈夫でしたかっ?」 「ええ、ずっとホテルにこもっていましたから」 「歩詩君にお土産があるんです、このお煎餅、おいしいんですよ」 「わわわわわ、すみません、わざわざ……」 「この焼き菓子もね、アイスクリームを乗せて食べたらおいしいんです」 「ええ、そんなにいっぱい……」 「後はですね、地元のスーパーで買った採れたての野菜とか……」 「昌彦さん、とりあえず靴を脱いで玄関からリビングへ移動しましょうか」 (かっこいいけど、何かほわほわほわわな人だな、このお父さんなら確かにアイス落っことすかも) ほわほわほわわな人柄に緊張が幾分解れ、櫻哉のときと同様に失礼なことをこっそり思う柚木であったが。 「お父さん」 隣に立つ比良に急に肩を抱き寄せられてびっくりした。 「紹介するのが遅くなってしまって申し訳ありません」 革靴を履いたまま玄関でしゃがみ込んだクールビズスタイルの昌彦は、荷物を広げようとしていた手を止めた。 「お友達の柚木歩詩君でしょう? さっき聞きました」 「お友達とは違います」 ピーマンを手にした父親も、その背後で立ち往生していた母親も、我が子を繁々と見た。 「高校の卒業式が執り行われたその日の内に柚木とは番になります」 (ひょええええええええええええええ)

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