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寝耳に水とは正にこのことか。
卒業式と同じ日に番に、具体的な予定について初耳であった柚木は驚愕する余り棒立ちになった。
『柚木と番になりたいと思ったんだ』
本当の初夜が始まる前に言われたことはもちろん覚えている、しかしまさか、そこまで早いタイミングで番になるとは考えてもみなかった。
(卒業式が終わったら比良くんとすぐ番に?)
じゃあ、おれ、大学には進まないで比良くんのお嫁さんになるの?
比良くんがおれのダンナ様にな……
「んがぐぐ……」
混乱し、んがぐぐしている柚木とは正反対に、比良は凛とした顔つきで真正面を向いていた。
「卒業したら結婚するつもりですか?」
「いいえ、結婚はしません」
櫻哉の問いに比良はすっと答えた。
柚木は素直にポカンとする。
自分の肩をしっかり抱いている彼をまじまじと見上げた。
「ふむ。婚約ですか」
しゃがみっぱなしの昌彦の問いに比良は頷いた。
「結婚するには経済的にも精神的にもまだ早いと思っています。一先ず番の誓いを立てて、絶対的な繋がりを持ちたい。その先は未定です」
「未定ですか」
「マストを抱えてどうしていくか、大学進学か、就職か、早い内に決めようとは考えています」
「ふーむ」
ツヤツヤなピーマンをまだ手にしている昌彦は、明らかに動揺している柚木に目をやった。
「歩詩君はそれでいいんですか?」
「はいっ?」
「高校を卒業したら柊一朗と番になること。君に迷いはないですか?」
立ち上がった父親にストレートに問われて口ごもったへっぽこオメガ。
アルファとオメガの絶対的な繋がり。
柚木にとっては都市伝説レベルだった。
日常のふとした瞬間に見る白昼夢みたいなものだった。
「柚木」
柚木の肩を抱き続けている比良は曇りなき眼差しで言う。
「俺は柚木を縛りつけたいわけじゃない」
再来年の春先に番になると宣言した比良に辟易していた柚木であったが。
澄み渡った黒曜石の瞳が美しくてホイホイ吸い込まれそうになる。
「自分の思い描く未来に向かって進んでほしい。卒業後は進学か、就職か、その他の道を選ぶのか。俺の口から言うのも烏滸 がましいが、柚木の好きなように選択してほしい」
「お……烏滸がましいのは常におれの方です、ハイ」
「俺と柚木、二人だけの特別な繋がりがほしい、ただそれだけなんだ」
体の向きを変えた比良は柚木の両肩に両手を添えた。
「別々のルートを歩むとしても、離れ離れになったとしても、番として結ばれているなら安心できる」
「比良くん」
「二人だけの絆がほしい」
(なんか、これって)
プロポーズみたいだ。
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