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「柚木を幸せにできるよう全力を尽くす」
一目惚れの初恋が成就された比良は家族の前で誓った。
その家族といえば……昌彦は何故かまた玄関でしゃがみ込み、さらに不思議なことに櫻哉までもが夫の背後に窮屈そうに屈み込んでいた。
「っ……お、お父さんもお母さんもっ、すみませんっ、ずっと玄関に足止めさせて……!」
玄関で荷物を広げ出したのは昌彦で、そこに引き留めるように声をかけたのは比良で、柚木は少しも悪くないのだが。
「出張で疲れてるのに! すみません! 荷物持ちます!」
「何だか二人がいい雰囲気なので空気になろうと努めていたんですが」
「めめめっ、滅相もないです……!!」
やっと靴を脱いだ昌彦は、ボストンバッグを持ち上げようと屈んだ柚木の肩をぽんぽん叩いた。
「歩詩君なら安心して柊一朗を任せられそうです」
(……それこそ千倍滅相もないです、お父さん……)
「だけど順番がね」
柚木よりも先にほとんどの荷物をてきぱき纏め、両手に提げた我が子に父親は肩を竦めてみせる。
「歩詩君、えらく驚いていたでしょう。こういうことは当事者同士であらかじめ話をしておかないとね」
お土産袋を一つだけ持った柚木は何とも言えず。
涼しげな顔をした比良は玄関ホールの中央で昌彦と向かい合った。
「今回は歩詩君がイエスを選んでくれました。だけど、もしもノーだったら居た堪れない結果になってましたよ」
「そうですね。でも」
「はい?」
「柚木ならイエスを選択してくれると信じていました」
父親も母親も、求愛されたオメガも、別格のアルファの曇りなき笑顔に「わぁ……」と圧倒された。
リビングへ荷物を運んでいく我が子の後ろ姿に揃って肩を竦めた後、昌彦と櫻哉はわかりやすく赤面している柚木に視線を傾ける。
「まぁ、おいおい考えが変わったら、他にステキな人が現れたら、ノーに変更してもらっても構いませんよ」
「柚木君のご家族のご意向もありますから」
「えっ、あっ、ウチは即オーケーかと……!」
(……比良くん以外にステキな人なんて考えられぬ……)
「歩詩君、今日で帰ってしまうんですか。もう一泊していったらどうですか」
「え!? えーと、それはあの」
「柊一朗はね、これまで恋人どころか友達だって連れてきたことがないんです」
昌彦はまだ玄関ホールから移動しようとせずに、対応に焦っている柚木にピーマンを手渡し、のほほん笑いかけた。
「だから嬉しいんですよ、僕」
これまでの付き合いにおいて伝わってきた柚木の人となりに心を解されてきた櫻哉も、銀縁眼鏡をかけ直し、我が子と番になるオメガに微笑んだ。
「何かと初心者な柊一朗にご教示お願いしますね、柚木君」
(いやおれも初めてっ!! 初心者の中のドドドドド初心者です!!)
かくして。
別格のアルファは唯一の恋心を捧げたオメガと番になる約束を交わした。
そして。
「にゃこ、にゃこ、にゃこ」
「あはは、ネコとニャーがごっちゃになっちゃってるよ?」
「にゃーこ」
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