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「柚木は高校を卒業したら大学に進むんだろう?」 高校二年生の冬休み。 比良のマンション宅にお招きされ、ダイニングテーブルで三時のおやつをご馳走になっていた柚木は空中でフォークをピタリと止めた。 「うん。そのつもり」 「第一志望はもう決まっているのか?」 家に極力負担をかけない、自分がどの分野を軸にして学びたいのか考え、二学期中に答えを導き出していた柚木は地元の国公立大学の名を口にした。 「そこの心理学部の人間科学科、目標にしてるかな」 「心理学部か」 「っ……ま、まぁ、去年とかは全く候補にも入ってなかったんだけど、急に湧いて出たというか、興味を持ったというか……てなかんじ……です」 (正直に言えばマストくんがきっかけになった) <第二の性>で分かたれたアルファとベータとオメガ。 発情期(ヒート)を制御する抑制剤(サルベーション)、比良のような革新的思想を掲げるアルファのおかげで極端な階層制は今日薄れつつあった。 しかし根強いオメガヘイトが蔓延っているのも事実。 一部において根本的に相容れない壁がある。 へっぽこオメガにとってアルファの世界は眩しく、遠く、おっかなく、踏み入ってはならない領域(テリトリー)に値した。 比良に対しても月とスッポン、高嶺の花と割り切った上での憧れでお近づきになるつもりは毛頭なかった。 (マストくんに出会うまでは、それがおれの世界だった) 「アルファとかベータとかオメガとか、そういうの抜きにして、誰かの心に寄り添うことができたらなって」 櫻哉と昌彦は年末の大学に出勤していて不在だった。 最初は熱くて恐る恐るだったホットココアを一口飲み、柚木は照れくさそうに笑う。 「高二になって、ほんとに世界が変わったっていうか。谷くんはともかく、アルファの代表格みたいな阿弥坂さんとか、ヘイト剥き出しだった意識高い体育会系ご一行様とか、ああいう人達と仲よく……うーん、仲よくは言い過ぎた……お付き合い……? 交遊……?」 以前、他のアルファと打ち解けないでほしいと比良に釘を刺されていた柚木は途中でもごもご口ごもった。 十月にあった修学旅行ではベータの友達だけじゃなくアルファのクラスメートともそれなりに楽しい思い出をつくった。 体育祭や文化祭でも。 互いに引いていた境界線を飛び越えて瑞々しく甘くほろ苦い時代を共有した。 「つまり公認心理師なり臨床心理士なり、資格をとって心理カウンセラーになることが柚木の将来の目標になるのか?」 そこまで具体的に将来図を練っていなかった柚木は「う……うん、それそれ、そんなかんじ、多分」としどろもどろに回答した。

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