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柚木の高校三年生の冬はいつにもまして凍えていた。 一月に実施された大学入学共通テスト。 自己採点の結果は合格ラインギリギリ。 二月下旬、第一志望とする大学の前期日程二次試験に挑み、これといった手応えもなく、落ちていたときのため半ばヤケクソ気味に後期日程に向けて勉強続行、ただ気を抜くと虚無に襲われた。 そうして悶々としている内に何食わぬ顔で迫ってきた三月。 別れの季節だ。 進路が決定して一段落している生徒もいれば柚木のように結果を待ち侘びる生徒もいる。 学校から巣立つ肝心の三年生が様々な心境でいる中、卒業式の予行練習が二月末に執り行われた。 「比良クン!!」 体育館から教室へ戻り、前回の登校日振りに会うクラスメートとのおしゃべりで皆が盛り上がっていると、面談室でオンライン参加していた比良が担任と共にやってきた。 行事には不参加だが、三年生に進級し、一学期と二学期は月に一回のペースで登校するようになっていた彼に多くの生徒がわっと集まる。 別クラスの同級生もまじっていたり、廊下から興味津々に覗き込んでいる者もいたり、依然として学校の頂点に立つアルファの衰えない人気ぶりが窺えた。 「ちょっとくらい人気薄れると思ったけど、やっぱり比良クンは最後まで人気者だったな」 「たまに学校来るっていうのも逆にポイント高いのかも」 「レア感が増すかんじ?」 教室の隅っこでベータの友達と屯していた柚木は苦笑した。 (比良くんの制服姿も明日の卒業式で見納めだ) 比良の高校生活最後の一年はオンライン授業にほぼ占められていたものの、三年間同じクラスでいられてよかったと、柚木は皆に囲まれた別格のアルファを感慨深そうに見つめた。 (……おれ、大学受かってるのかな、おおおお、落ちて……落ちてるような気しかしなぃぃ……) 二次試験以降、負の感情に著しく囚われやすくなっているナーバスな柚木は「おえっ」と嘔吐(えず)いた。 「うわ、またユズくんが吐きそうになってる」 「おえ~」 「うん、気持ちはわかる、オレもぶっちゃけ卒業式どころじゃない」 「面接も小論文もない異世界に転生したい……」 「おえ~~」 自分と同じ境遇にある友人らに励まされ、背中を(さす)られて、薄れるどころかさらに不安を募らせたへっぽこオメガ。 「柚木、大丈夫か」 教宅前から足早にやってきた、予定通り同じ大学を受験した比良に労われると……とことん情けなくなって、さらにナーバスに。 「ツワリですかね」 入試の結果待ちで気もそぞろであることを知っている谷に揶揄されて「ふごごっ」と動揺の余り鼻息まで荒げる始末だった。

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