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「え!!」
「ほんとに!?」
「ユズくん、おめでた?」
(違う違う違ーーーーう!!!!)
不安でナーバスで情緒不安定になりがちな柚木は、自分の頭を優しく撫でる比良に涙腺をやたらと刺激され、ぼろりと涙した。
「柚木」
「お、おれ、死ぬ気で頑張ったけど、おおおっ、落ちてるかも」
「大丈夫。きっと合格してる」
「比良くんはね、絶対合格してるよ、でもでもでもでも……!」
(こんなんでキャンパスライフをバックアップとか、むり過ぎるのでは、誰かの心に寄り添うなんて夢見過ぎたのでは)
どんどんマイナス思考に偏って嘔吐いたり嗚咽したりしている柚木に比良はゆっくり言い聞かせた。
「柚木がたくさん努力してきたのを俺は知ってる。その努力は必ず報われる。昇華されるはずだ」
鼓膜のみならず脳まで甘やかすような癒やしの響きを伴う声色に、そばにいた同級生はうっとり聞き惚れた。
(……比良くんこそカウンセラーに向いてる)
「そろそろ席に着いて、他のクラスの生徒は早く戻るように」
担任の指示は聞き流して、柚木は、大人びたアイボリー色のセーターを着こなす比良を見上げた。
「なんで?」
唐突に問いかけられて小首を傾げた彼にしがみつく。
澄み切った黒曜石の瞳に込み上げてくる涙もそのままに、顔をくしゃくしゃにして声を張り上げた。
「なんで比良くんだけ面談室!? 一緒に卒業式出れないの!?」
比良は明日の卒業式本番でも櫻哉に付き添われて面談室からモニター越しに参加する予定だった。
「別々やだ!! 一緒に卒業式したぃぃい!!」
目指していた大学に受かっているのか、落ちているのか、緊張状態が連日続いてメンタルをやられ、感情の起伏をコントロールできずにいる柚木の言葉に不覚にも多くのクラスメートがぐっときた。
比良と共に卒業式を迎えたい。
それは皆も同じだった。
せめて高校最後となる行事だけは……。
「もしも式の途中でマストになって皆の晴れ舞台を台無しにしたら。そうならないためにも別々の方がいい」
教室で最も落ち着いている比良に背中を擦られると柚木はあたたかな胸に額を押しつけた。
「マストくんになったら、おれが何とかするから……一緒に出よう? 一緒に卒業しよう?」
ベージュのセーターに包まれた肩が小刻みに震えている。
皆が見ている前で圧倒的包容力に漲る憧れのクラスメートにぎゅうぎゅうしがみつき、めそめそし、ぐずった。
「……だって。比良くんにとっても晴れ舞台じゃんかぁ……」
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