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「ある意味、記憶に残るエキセントリックな卒業式になって逆にいーかもですね」 柚木は周囲を憚らずに比良に精一杯しがみついていた。 キャメル色のカーディガンを羽織った谷はさり気なく視線を逸らし、努めて軽々しい口調でのたまう。 「もしも別格のアルファ様がマストになったら? 長ったらしい挨拶省略、式自体がサクサク簡略化されて快適かもですね」 学校推薦型選抜で一足先に私立大学の合格が決まっていた彼は、入試の際にポニテが様になっていた髪をバッサリ切り、色も黒に戻して、現在もそのスタイルにあった。 「これ以上、ユズのメンタルがボロボロにならないためにも卒業式に出たらいかがでしょーか?」 柚木自ら比良の懐に飛び込むのを見て、正直なところ、やっっっと気持ちに踏ん切りがついたはぐれアルファ。 最強のガードに値する腕の中でめそめそしているへっぽこオメガを横目で見、寂しげに笑った。 「……センセイ、最後の卒業式くらいいーんじゃないですかね、やっぱり難しいんですかね」 「いざとなったら私も歩詩に協力します」 谷に続いてアルファの女王サマこと阿弥坂も意見した。 柚木らのいる教室後方へ歩み寄ろうとはせず、教卓横で腕を組んでいる困り顔の担任に勇ましげに迫った。 「もしもマストになった場合、比良クンの尊厳を守るためにも全力で制圧します」 「過激派の女王サマ、武力行使ってやつですかね」 「うるさいわよ、谷」 二年生のときにバッサリ切った黒髪は前下がりのショートボブに落ち着いていた。 ホテル経営を学ぶためのアメリカ留学を選択し、柚木と同じく大学の合否通知の待機中であるが、不安などゼロ、その女王サマっぷりは今も健在だった。 「阿弥坂は隣のクラスだろう」 その通り、三年になって柚木たちとクラスが別々になった阿弥坂は隣の教室から出張ってきていた。 「そんな些末な事柄を問題にするよりも出席可能な卒業生が一人除外された状態で卒業式が執り行われることを問題視してください」 黒セーターを身に纏う阿弥坂にグイグイ迫られてタジタジになっているところへ、他の生徒にも一斉に詰め寄られ、担任は困り果てている。 (……しまった、また取り乱してしまった……) 一方、プチパニックを起こしていた柚木はようやく我に返った。 自分が招いたプチ騒動に気がつかずに、居心地のいい懐からぎこちなく離れると、身も心も受け止めてくれていた彼をおずおずと仰いだ。 「また取り乱してしまいました、ごめんなさい……」 比良は首を左右に振る。 「……おえっ」 「柚木、頭痛は? 動悸はないか? 夜はちゃんと眠れているか?」 昨日、勉強しに伺った比良のマンション宅で同じ質問をされていた柚木はコクンと頷いた。 「……その、取り乱したけど、比良くんと一緒に卒業式迎えたいのはほんとだよ」 「そうか」 正直、柚木さえいてくれたらそれでいい日々を過ごしてきた比良は、一月の三学期始業式振りに訪れる教室に視線を巡らせた。 「そうだな……」

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