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26-10
「柚木の隣で卒業式を迎えることができてよかった」
柚木は腫れぼったくなった瞼をピクピクと震わせた。
「ありがとう、柚木」
「い、いやいや、卒業式したのは学校だし、猛烈にはたらきかけたのは阿弥坂さんやアルファのみんなだし、おれは特に何にも……」
昼下がりの強風に時折ガタガタと軋む窓。
レースカーテンに滲む青く冷えた空。
卒業式に参列していた櫻哉の車に乗せてもらい、柚木は比良のマンションへやってきた。
半日の休暇をとっていた彼は大学に向かい、今は二人きり、一時間前のお祝いムードで盛り上がっていた校庭の喧騒とは真逆の静寂が流れている。
写真を撮って、ハグは気恥ずかしくて握手したりなんかして、しばしの別れとなる友人らの声が柚木の鼓膜には鮮明に残っていた。
「比良くん、謝恩会には出なくてよかった?」
そこは比良の部屋だった。
「ああ」
「そっか」
「卒業式に出席できたのは柚木や皆の呼びかけ、先生方の配慮があったからこそだ。だから、もう十分だ。これ以上厚意に甘えることはできない」
暖房は消されていて足元に沈殿する冷気。
モノトーンのインテリアが午睡に耽る室内のほぼ中央で柚木は比良に抱きしめられていた。
「柚木がまた胴上げされたらどうしようかと思った」
(あ、やっぱり引っ掛かってたんだ)
校庭で仲間同士でハグを繰り返しては感極まっていた運動部員アルファのグループに柚木は胴上げされかけた。
二年生の球技大会の苦々しい記憶が蘇り、しかし拒否したら場を白けさせるかと、へっぽこオメガは模範的苦笑いで熱血展開を受け入れようとした。
そこへ阿弥坂がすかさず割って入って「最後はせっかくだし谷を胴上げしましょう」と標的を変更させ、おかげで回避することができた。
(胴上げされてた谷くん、今までに見たことない顔してたな)
ついつい思い出し笑いしていたら。
両腕の輪が一段と狭まった。
「柚木、今は別の誰かのことを考えないでくれ」
ひんやりした部屋で中毒性の高い温もりにすっぽり包み込まれ、依存的ですらある両腕の締めつけに柚木は頬を紅潮させる。
(いよいよ番になる)
試験とか大学とか卒業とか、いろんなことでいっぱいいっぱいな一年間だった。
でも、いよいよ、とうとう。
比良くんと番に……。
「おえっ」
「柚木」
「ご、ごめん……緊張の大波 が……うぅうぅうううぅ」
動物のこどもみたいに唸る、ムードクラッシャーなる赤ら顔の柚木に呆れることもなく比良は微笑した。
夢見てきた今日という日に心身共に昂揚し、その瞬間を今か今かと待ち焦がれる。
もう少しで生まれる二人だけの絆に指の先まで高鳴る……。
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