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(い、痛いのかな、絶対痛いよな、だって番になるくらいだもん、どんだけバクリされるんだろ!?) 「おれ、出血多量で死んだりしない?」 「俺は吸血鬼じゃないから。そんなに酷く咬みついたりしない」 「し、失神する? 意識飛んじゃう?」 「それはわからない」 「え!? 失神するくらい噛まれます!? それ絶対痛いやつじゃん!! やっぱりちょっとくらいお肉持ってかれるでしょ!?」 「俺は獣じゃないから」 紅潮していたはずが見る間に青ざめた柚木。 不安がるへっぽこオメガに別格のアルファは言う。 「俺に背中を向けてシャツの襟を緩めてくれるか」 (きたぁぁぁぁぁぁぁぁあ) 「ま、待って、もうちょっと待って」 「どれくらいだ?」 「後十分、あ、足りない、一時間、ううん、余裕をもって一日か一週間くらい」 「無理だ」 「ふぇぇぇぇえ」 ギリギリになって柚木は混乱し始め、比良は一秒でも早く番になりたく、二人の押し問答は長引きそうに思われたが……。 バン!!!! 「グァーーーーー!!!!」 窓辺で衝撃音がしたかと思えばけたたましい鳴き声が静寂を(つんざ)いた。 油断していた柚木は小さな悲鳴を上げて比良に飛びつく。 バッサバッサと羽音まで響かせ、バルコニーで一頻りギャーギャー鳴き立てた後、(くだん)のカラスは飛び立っていった。 「あのカラス、俺の部屋にも来るようになったんだ」 淡々とした比良の言葉に柚木は吹き出した。 緊張の糸が解れ、アイボリー色のセーターに顔を埋めたまま声を立てて笑った。 「いい加減、餌付けするの、お父さんにやめてもらわないと」 「父は気が向いたときにバルコニーでおやつを食べる。そのときに落としたクッキーやマフィンを拾う前に奪われるそうだ」 「それ、餌付けっていうか、横取りされてるっていうか」 もぞりと顔を上げ、一旦枯れたと思っていた涙を目尻に浮かべた柚木は、ふと背伸びをした。 比良の肩を掴むなり爪先立ちになって端整な唇にキスを。 「……じゃあ、お願いします……」 ぱっと顔を離すと上目遣いに視線を合わせ、青ざめていたはずの顔を再び紅潮させて、くるりと回れ右する。 すでに外していた制服シャツの第一ボタン、その下に連なるボタンを二つ外した。 「これくらいでいい……?」 襟元を左右に広げて背中側にずらす。 普段は服で隠すようにしている聖域を比良の眼前で自ら露にした。 「ああ」 囁きによる回答がうなじに触れて柚木の胸奥は痛いくらいに捩れた。 「比良くん」 「うん」 「大学落ちてたらごめん」 満遍なく熱せられた顔と同様、ほんのり赤くなっている肌に恭しげに比良は口づける。 「大丈夫。きっと一緒に合格してる」 下を向いてじっとしている柚木の細い肩に両手を添えた。 そっと目を伏せ、黒曜石の瞳に睫毛の影を落とし込み、想いの丈を唇に乗せる。 「ずっと一緒だ。ずっと、いつだって俺の世界の中心にいて、柚木」 ずっと恋い焦がれていた聖域に比良は永遠の愛を誓った。

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