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26-12
「ぱっぱ」
住宅街の一角、終点の一つ前に位置する停留所。
ベンチはなく、夕犀の小さな手と愛犬のリードを握って立つ柚木の正面で一台のバスが停車した。
扉が開かれて続々と降りてくる乗客。
なかなか多い。
同じマンションに住む顔見知りの住人に挨拶されて「こんばんはっ、今日寒いですね!」と柚木が対応している内に、最後尾にいた乗客が降車口に姿を見せた。
体の線にフィットしたグレーのダブルトレンチコート。
白シャツに深みある臙脂色のセーターを重ね着し、ボトムスはピンストライプのテーパードスラックス、足元を引き締めるはブラックの革靴。
片手には焦げ茶のビジネスバッグ、もう片方にも荷物を持ち、両手が塞がった状態で不安定にグラつくこともなくアスファルトへと降り立つ。
「柚木?」
迎えにきていたオメガの伴侶に少年のように比良は顔を輝かせた。
「いつ見てもステキな旦那様ね」
先輩主婦であるベータのご近所さんに去り際に褒められて柚木は素直にニヤける。
(ほんっと、おれのダンナ様なんで毎日こんなにかっこいいんだろ!?)
ニヤけるだけに留めておいてデレるのは我慢し、夕犀・ごま郎と共に比良を出迎えた。
「おかえりなさい、比良くん」
ひんやり冷たい風が目元にかかる前髪をくすぐり、一瞬目を閉じた比良は、次に眩いばかりの笑顔を浮かべた。
「ただいま、柚木。お出迎えしてくれるなんて聞いてない」
(お……お月様が目の前に現れた……)
「ありがたや……」
「うん?」
「あ! えーと!? 今日はSCの日でバス使うし、荷物、多いかと思って!!」
「ぱっぱ、ぱっぱ」
抱きつき甲斐のある長い足にぴたりとくっついた夕犀が「だっこ」と強請る。
柚木が空いた片手で荷物を受け取ろうとしたら、比良はビジネスバッグの方を預け、裏起毛のトレーナーに水玉ロングパンツを履いた我が子を片腕に抱っこした。
「ただいま、夕犀」
「だっこ」
「抱っこ、もうしてるよ?」
「ぱっぱ、おかえり、いってらっしゃい」
「パパ、またお仕事にいってきますしなくちゃ駄目かな?」
(今のやりとり、永久保存モノなのですが!?)
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