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26-14
『比良歩詩。柚木歩詩。どっちがいい?』
『……あんまり考えてなかった……』
『俺の苗字もいいけれど、やっぱり柚木歩詩の方がいいな。柚木。いつまでもそう呼びたい。好きなんだ、響きが』
『……おれも』
『うん?』
『比良くんから柚木って呼ばれるの、好き……です、ハイ』
『本当に? 柚木……』
『ひッ! 耳元で囁かないで! 鼓膜がもたない!』
以前ならば法律上認められていなかった、現在は制度が導入されて可能である別姓婚を二人は選んだ。
生まれてからそれまで暮らしてきた実家を出、比良の勤務先から近い、昌彦と櫻哉が住む比良家からも徒歩で行き来できるマンションに移り住んだ。
「けーき」
2LDKの我が家に帰宅した。
お気に入りの場所の一つである父親の懐から夕犀は離れようとせず、比良は一先ず片方の手にずっと持っていたソレをダイニングテーブルに下ろした。
洋菓子店の凝ったデザインが目を引く紙袋。
中には長方形の真っ白な箱が入っていた。
「そう。ケーキ。よくわかったね」
「ゆーせー、いちごの、たべた」
先月、三歳の誕生日でイチゴのショートケーキを食べていた夕犀は、抱っこを続けてくれる父親に五回目くらいの報告をする。
「ぷれぜんと、もらったの。おじいちゃん、おばあちゃん、もらったの」
「うん。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんからお絵かきセットと絵本をもらったね」
「それと、つみきのおもちゃ、ぴかぴかのくつ」
「それは柚木のご両親とお義姉さんから戴いたものだね」
「たにくん、あやたかたん、カード、もらったの」
「……そういえば谷と阿弥坂からバースデーカードが届いてたか」
一瞬だけ真顔になった比良だが、すぐに笑顔を取り戻し、自分の懐で温もっている夕犀に告げた。
「今日はママの誕生日なんだ」
そう。
今日は柚木の二十九歳の誕生日だった。
「まま、うまれたひ?」
浴室で愛犬の足を洗ってきた柚木がリビングへ入ると、くるりと顔を向け、夕犀はオメガママを祝福した。
「おたんじょうび、おめでと、まま」
(うっ)
最近、息子の成長に緩みがちな柚木の涙腺はここぞとばかりに刺激された。
「ゆっ、ゆっ、夕犀~~っ」
「ままー」
居ても立ってもいられずに夕犀を抱っこする比良ごと抱きしめた。
夕日の匂いがするサラサラ髪の小さな頭に頬擦りしまくった。
「柚木、おめでとう」
両親に挟み込まれてあどけなく笑う夕犀に心癒やされ、がむしゃらにハグしてくる柚木に頬を紅潮させて、比良も伴侶の誕生日を祝した。
(ふぉぉぉ……二人ともあったかい……これって幸せの温度……?)
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