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誕生日ディナーはいわずもがな、柚木の大好物であるエビ天をメインにした出前だった。 「ふわぁ」 夕食直前にお散歩したせいか、自分用のお子様ランチを食べている途中から夕犀がうとうとし始めた。 抹茶塩でエビ天を堪能していた柚木は舟をこぐ我が子を横から覗き込む。 「夕犀、おねむだ」 「……うぅん」 「ハミガキしてもう寝よっか」 「……けーき、たべる」 「ケーキは明日にしよっか」 柚木の言葉に夕犀はこっくり頷く。 すると向かい側にいた比良がすっと立ち上がった。 すでに一緒に入浴を終えていた夕犀をサニタリールームへ連れていき、歯磨きに付き添った後、そのままリビングと隣接する寝室で寝かしつけに至った。 「横になって寝入るのに十秒もかからなかった」 柚木は思わず笑った。 寝室の扉を細く開けたままにして、ダイニングテーブルの向かい側へ戻ってきた旦那様と共に中断していた夕食を再開する。 一見して片付けられたリビング。 実はテーブルの下や壁際に愛犬のオモチャが転がっていたり、引っ張り出された靴下が点々と落ちていたりと、何気なく賑やかだ。 時刻は午後八時を回ったばかり。 テレビは消されていて些細な生活音がどこからともなく聞こえてくる、秋の夜長の入り口だった。 「柚木、いつもありがとう」 メインの食事を終えて後片付けを済ませ、ケーキを用意する前に、比良は仕事部屋に仕舞っていたプレゼントを柚木に差し出した。 シックなブラウンのリボンが巻かれた同色のケース。 蓋を開ければ愛犬のお散歩には履いていけそうにない、漆黒の艶を擁するビットローファーが優雅に横たわっていた。 「ひょぇぇ……大人っぽい……」 「座ってごらん」 ダイニングテーブルのそばに立っていた柚木は比良をまじまじと見上げた。 フリースパーカー姿の彼に無言で両手を差し出されると、一旦ケースを預け、ぎくしゃくとした仕草でイスに腰掛ける。 比良はその場に跪いた。 真横で寛ぐ愛犬ごま郎に見守られる中、丁重な手つきでケースから取り出した靴を片方ずつ柚木に履かせた。 「比良くん、靴屋の店員さんみたい」 サイズはぴったりであった。 ゴールドビットがあしらわれた深みあるブラックの柔らかな本革が爪先によく馴染む。 去年にプレゼントされたコート、今年のホワイトデーにもらった靴下が合いそうだ。 正直、伏し目がちに真摯な眼差しを紡いで靴を履かせてくれた比良に柚木は猛烈にときめいていたのだが。 「履き心地はいかがでしょう、お客様」 冗談めかして上目遣いに畏まった口調で問いかけてきた茶目っ気ある旦那様に、あわや、昇天しそうになった……。

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